SHORT U
□大嫌い
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※甘くないです
どんなに暗い部屋であっても、所詮人口的な場所である限り、完全な闇にはなりきれない。
ある程度目さえ慣れてくれば、白黒の中に、モノの大体の輪郭くらいは見えてくる。
しかし、綱吉は敢えて目の前の人物の顔を見ようとはせず、自分達の動きに合わせて上下にブレて見える天井の照明器具を、茫然と眺めていた。
意識全体に薄いモヤが掛かっているようで、状況把握がうまくできない。
ただ、この行為はいつまで続くのだろうかと、鈍った頭で考えた。
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「っ! ……っぁ、っ……! 」
自分の下で必死に声を押し殺す男を見て、ザンザスは久しぶりに愉快だと感じていた。
いつも自分に警戒を向けていた目が、焦点も合わせられないままにボロボロと涙をこぼす様は、声をたてて笑いたくなるほど面白い見せ物だった。
掠れた声で、やめろと繰り返されると、もっと苦しめてやりたい欲望に駆られる。
羞恥に震え、涙を流す綱吉には、人の残虐性を煽る才能の様なものが備わっていた。
「っ、は、っぁ、ぁあっ―――! 」
一際大きく腰を打ち付けてやると、綱吉は、声にならない叫びを上げ、全身を痙攣させながら、果てた。
ザンザスもまた、何度か腰を振った後、少し遅れて綱吉の中に吐精した。
綱吉の身体が、小さく跳ねる。
短い呼吸を繰り返して息を整えた後に自身を引き抜くと、自分が出した白と、無理矢理貫いた為に出た赤が混じったものがシーツに染みていった。
眼下でピクリとも動かなくなった綱吉の様子を伺うと、大きく開かれた目や口から垂れた液体が、月明かりに照らされてテラテラと光っていた。
今、この、汚れを知らない男の身体を好きにしているのが自分だという事実は、不思議なまでにザンザスの心を満たした。
少し前までザンザスの心の大半を占めていた怒りや憎しみは綺麗サッパリ消え去っており、今現在、ザンザスは、かつてない程の晴れやかさを味わっていた。
気付けば、無意識のうちに笑っていた。
初めは小さく圧し殺すように、しかしだんだんと抑えがきかなくなり、途中からは狂ったように大声で笑い続けた。
『は、は、は―――
は、は、は―――! 』
それは、喜びからきたもの、というより、安心からきた笑いだった。
"この世に希望はなく、絶望だけが、どこまでも広がっている"
それが、ザンザスの信じてきた世界であり、ザンザスの生きてきた世界でもあった。
そこ以外では、ザンザスは生きる術を知らなかった。
だからこそ、それとは全く反対の生き方を求める綱吉が、いつも目障りでしかたなかった。
周りに希望を与えるこの存在が、許せなかった。
それが、今、自分の下で無様に泣いている。
満足だと思った。
汚れてしまった彼は、ザンザスと同じく、絶望を味わった筈だ。
笑いを納めると、ザンザスは、綱吉に顔を近づけ、その耳を軽く食んだ。
ビクッと震える身体に、また笑いが込み上げてくる。
「墜ちろ……」
耳元で囁いた声が、もうほとんど意識のない彼に届いたかどうかは、正直、よくわからなかった。
END
自分の頬が濡れていることには、気付けなかった。