SHORT

□ザンザスハピバ
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バタバタと廊下を走る。


やばい。

今年もギリギリだ。


角を曲がると、レヴィが待ち伏せしていた。
電撃を飛んで避けると、後ろから首に手刀を叩き込む。

「ぬぅっ」、と呻いて、倒れた。


「ごめんね」


彼が、こうして綱吉の行く手を阻むのは毎年のことだ。
いつ来るともしれない綱吉を待つなんて、本当に御苦労様だ。

更に走っていくと、いきなりナイフが飛んできた。

きゅ、と足を止め、マトリックスよろしく身体を仰け反らせて避ける。

通り過ぎた後、そこにあるだろうワイヤーを炎で焼きちぎった。

「ちぇっ、殺せなかったかー」

ししっ、と笑いながら姿を現したのはベルだ。

「ベルまで……今年はどうしたの」
「今日はオフで暇してたからさー。そしたら綱吉が全力失踪してるから、思わず殺したくなっちった」

「……あぁ、そう」


ガク、と肩を落とす。

「じゃあ、俺行くね」


そう言って、再び走り出す。
もうナイフは飛んでこなかった。


途中、血まみれで倒れているルッスーリアを飛び越えた。

手には、「愛しのボスへ(ハート)」、と書いてある包みを持っていた。

彼女も懲りない。
去年も全く同じ光景を見た気がする。

腕時計をチラッと見る。

「やば…」


あと残っているヴァリアーメンバーを思い浮かべて、綱吉はげんなりした。

ここでマーモンの幻術なんかくらった日には、絶対間に合わない。

「……僕が何だって?」
「うわぁっ!?」

気付くと、いつの間にか綱吉の肩にマーモンが乗っていた。

「い、いや…このまま何もせずに通してくれないかなー、と……」
「フン、別に、最初からそのつもりだよ。君の妨害をしたって、一銭の得にもならないしね」
「マーモン……!」


君が金の亡者で本当によかった!

そう言って笑う綱吉にイラッとしたけれど、なんだかあまりに良い笑顔だったので、マーモンは戦意をなくした。

「ま、精々頑張りなよ」、と言って、マーモンはスッと姿を消した。


よし。


残すは……。


「う゛ぉおおいっ!!」


スクアーロのみ。

「ごめんスクアーロ、通して」
「う゛ぉおおいっ、何しに来やがったぁぁ」
「…………は?」


綱吉は思わず足を止めて、スクアーロを見上げた。


「え……スクアーロ、まさか、今日が何日だか、分かってない…?」
「あ゙ぁ゙ん……?何言ってやがんだぁ、今日は10月…………あ゙。」
「本当に忘れてたのー!?」


こんなに覚えやすい日なのに。

「ヴぉおおいっ、何も用意してねぇぞぉおっ!!」


騒ぐスクアーロの脇を、ごめん、と呟きながらすり抜けた。


……まだ、間に合う。


彼の部屋を、一直線に目指した。


角を2つ曲がって、階段をかけ上がる。
敵襲に備えて、ヴァリアーのアジトは、とても複雑な形をしている。

まるで迷路のような造りに、最初はよく迷子になっていた。

しかし、それももう、過去の話だ。
今では、彼の部屋なら、目をつぶってでも行ける気がする。

……いや、うーん。
言い過ぎたかも。


まぁとりあえず、そのくらいは来ているアジト内を、綱吉は走り抜いた。
走り抜いて、たどり着いたのは、ライオンのドアノックが付いた大きな扉の前。

「はぁ……はぁ……」

膝に手を付いて息を整える。

何度か深呼吸をして、それから、コンコン、とドアを叩いた。

「……入れ」

ギィ、と扉を押し開けると、中は暗かった。

また電気つけてない。
どうせ、スイッチまで歩いていくのが面倒臭かったんだろう。

はぁ、とため息をつくと、綱吉はドアのすぐ隣にある部屋の電気のスイッチを入れた。


パ、と部屋が明るくなる。

彼はいつものソファにふんぞり返り、お気に入りのスコッチを飲んでいた。


「何しに来た、ドカス」
「今日は、特別な日だからさ」


そう言って、彼、ザンザスに近寄る。

腕時計を見ながら、カウントする。

「5、4、3、2、1……ザンザス、誕生日、おめでとう」


そう言って、大きな身体を抱き締めた。


生まれてきてくれてありがとう。
傍にいてくれてありがとう。


愛してくれて、ありがとう。


彼が大嫌いなこの日を、少しでも好きになれるように、と願いをこめて、綱吉はザンザスにキスをした。





END

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