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01/12(Mon) 00:32
ヘ●リアとコラボするかも知れません
壱原 紅

―――いつか、その壁を壊しに行こう


【1989.11.09】


それは、どこかの世界で交された話
1985年の、木枯らしの吹く頃のこと―――


「……ドイツのベルリンの壁か…」

テレビのニュースを見ながら
ぼんやりと、寂しそうに呟いた彼に俺は手を止めた

「どうしたんだ?急に…」

その言葉に振り返ると、彼は笑いながらも憂いを含んだ声で答えた

「ああ、この国は壁に隔たられたまま在り続くのかと思うと悲しくなって……壁の向こうの家族や恋人に会えないまま死んでしまう人達もいるからな」
「…シグにぃ…」
「……ドイツは、私の伝承を讃えた国だ…私は、この国がなければ存在すら曖昧だったろうな…」

眼を伏せて、彼は静かに呟く

「ドイツが?」
「私は北欧の英雄だけど、その伝承を世界に広めたのはドイツの音楽家だから―――私の、第2の故郷になるのかな」

そうして、その声に俺は問掛けた


「シグにぃは助けたいのか?《国》を」
「簡単じゃないだろうけどね……助けたい、たとえ私の自分勝手な我儘でも」

たとえ実際に関係が無くても、彼は故郷と言った

「『帰りたい』のか、シグにぃ」
「…『私』がじゃない、別たれたドイツの民がだよ士郎」

40年は長すぎだろう?
そう言って《兄》は笑う……深い怒りを籠めた声で

「―――じゃあ、壊してくるよ」
「え?」

だから決めた

「俺が壊しに行くよ、助けを求めてあの国の民が泣いてるなら―――正義の味方が行かないと」
「士郎…」

それに、何より…

「……シグにぃの故郷なら、尚更助けたいんだ」
「っ!?」
「何より――俺はシグにぃのそんな悲しい顔みたくないから」

その呆気に取られた顔に笑うと、彼は額に手を当ててうつむいてしまった
若干顔が赤い気がする

「勝手なことばかり言ってくれるな…お前、1人であの国をなんとかする気か?」
「それは…」
「馬鹿、1人より2人のが大丈夫だろう?」
「あ」

呆れた顔で彼が笑う



「行こうか士郎、一緒に―――あの国へ」
「ああ、一緒に壁を壊しに行こう……兄さん」



……ある冬の話、約束を交した
叶わない筈の夢、その第一歩を踏み出す為の誓いを





―――その5年後
壊れることなどないとされたベルリンの壁が崩壊する
理由が定かではないその陰に、ある噂が流れた


―――銀の髪と赤い外套の騎士が、西と東の民をそれぞれ率いて壁を壊しにきた、と

END

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