ラブ&ヒーロー

□昼休みの出来事
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「あ!轟さん!」

十字路を走り抜けた後に、横から歩いてきたのは想い人だったことに気がついて、前を走っていたクラスメイトに向かって叫んだ。

「みんなー!ちょっとタイムー!」

急ブレーキをかけて止まろうとするも、勢い余って前のめりになってしまった。

「わっ!?」

「泉!」

前転すれば良いと思って手を出すが、床がつるつるしていたため滑ってしまった。私は勢いよくうつ伏せに倒れ込んでしまった。おでこまで地面に打ちつけた。痛い。

「痛い!」

顔を上げて叫んだ。よりによって何故今転んでしまうのか!ヒーロー科たる者これしきで転んでどうする!うー悔しい!などと考えながら身体を起こして座り込んだ。

「大丈夫か?」

心配して近寄ってくれたであろう轟さんは、私と目線を合わせるためか屈んでくれていた。優しい人だなあと思っていると、轟さんが右手を差し出したので、私は手と顔を交互に見比べた。

「手」

これは手をかせという意味だろうか…?そう躊躇していると、轟さんは反射的に伸ばした私の手をつかんだ。心臓が飛び出そうになっている間に、強い力で助け起こされた。

「おでこ赤いな」

床に打ちつけたおでこを見つめて轟さんはいつもの表情で言った。恥ずかしいよりも、轟さんが私の手を掴んでいることに意識が行ってしまう。男の人の手だ。お兄ちゃんやかっちゃんと違う、好きな人の手。

「好きです」

「そうか」

顔の火照りを感じていると、轟さんはいつものように答えて手を離した。

「怪我はないか?」

「大丈夫です!轟さんに手を貸してもらったことにびっくりして、どきどきしてます」

早口で告げると轟さんはまた、そうかと答えた。

「何してたんだ?」
「鬼ごっこしてました!今私が鬼なんです」
「楽しそうだな」
「個性使用禁止なんですけど、楽しいんです。追いかけてる途中で轟さんを見つけて…」

話していると、背中にクラスメイトの声が聞こえてきた。


「泉ー?まだー?」
「早くしろー緑谷」


「呼んでるぞ?」
轟さんは振り返って私を呼ぶクラスメイトたちに視線を送った。

「今行くー!」

クラスメイトに向かって叫んでから、私は閃いた。

「あ!そうだ、轟さんもやりませんか!?」
「鬼ごっこを?」
「はい!」
「いや俺は…」

「何してんの?泉。…って轟先輩じゃん…!」

クラスメイトがこっちに歩いてくると、轟さんを見てぎょっとした顔をした。

「お話してるの!今ね、轟さんも鬼ごっこやりませんかって誘ってたとこなんだよー」
「えぇ!?」

驚くクラスメイトに、轟さんは首を振った。

「わりぃけど、先生のとこ行かなきゃなんねぇから無理だ」

「そうなんですか!それは、引き止めちゃってすみません」

「大丈夫、気にするな。おでこあとでちゃんと冷やしておけよ」

「はーい!ではまた!」

クラスメイトと共に歩き出してから、思い出して振り返った。

「轟さーん!」

歩き出していた轟さんは立ち止まって私の方を見て、首をかしげた。

「今度やりましょうね!鬼ごっこ!」

腕を高く上げてぶんぶん振った。

「考えとく」

轟さんは控えめに腕を上げると、手を振ってくれた。


「知り合いなんだね」

クラスメイトの言葉に思わず笑みが溢れた。

「うん、そうなの!でね、私の好きな人なんだよー!」





2021.2.6

ものすごくちなみになんですが、夢主が爆豪妹を誘ったら無言で「あたしがやるとでも?」と言う顔をされました。いつものことなので気にしませんが。やらないのは分かっていても、夢主は爆豪妹に必ず声をかけるのです。彼女たちは時々2人きりで静かに昼休みを過ごしています。中学生の頃はほとんど2人で過ごしていたくらい仲が良いのです。
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