ラブ&ヒーロー

□幸せはひとつじゃないって話
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雄英時代のクラスメイトたちとの同窓会に、緑谷出久は妹から預かった宝物を連れていった。

「みんな、久しぶり!」

「ひさ……!?」

振り返った何人かが驚いて、目を丸くしていた。口をあんぐりと開けて、言葉を発せない者もいた。

「ど、どうしたの…その子…」

「緑谷にそっくりだな⁉︎」

深緑の癖っ毛にそばかす。丸っこい瞳。妹の宝物、ほむらは緑谷にそっくりだ。違うところは透き通るような青い瞳だけ。

「いつのまに子供なんて…」

ざわざわとどよめく中、抱っこされたほむらは目を輝かせていた。

「うわぁ…!ヒーローがいっぱい!」

「ほおくん、挨拶できる?」

うん!と泉譲りの元気な声頷くと、楽しそうに言った。

「こんにちは!ぼく、ほおくんだよ!」

「可愛いでしょ。ほおくん、何歳ですか?」

「さんさい!」

「じゃあ、個性は?」

「あるよ!みてて!」

ぐっと息を吸い込んだので、緑谷は慌てて口を塞いだ。その様子に何人かはピンと来たようで、楽しそうに笑った。

「お店の中じゃダメだよ、ほおくん。やめて」

「こっち?」

息を吐いたほむらは、手に小さな炎を出した。綺麗な赤い炎。

「うん、そう。良く出来ました」

褒められて嬉しそうに笑ったほむらを、緑谷は優しく撫でた。

「可愛いでしょ?」

緑谷は先程と同じ言葉を繰り返して、クラスメイトたちに笑いかけた。

「いや、ちゃんと説明しよーぜ!?」

「緑谷、お前いつの間に子どもなんて…」

砂藤はつっこみ、切島は驚きながら問いかけるが、緑谷は意味ありげにふふふと笑うばかりだった。

「こえーよ、緑谷…なんか言ってくれよぉ…」


「緑谷」

緑谷は振り返って、いたずらっ子のように笑った。

「轟くん」

「…人ん家の子どもを勝手に自分のものにしないでくれ。頼むから否定してほしい」

後ろから現れた轟が溜息混じりに言った。

「パパ!」

幼な子が轟に向かって嬉しそうに腕を伸ばした。轟は優しそうな笑みを浮かべて、ほむらを抱きとめた。ほむらは嬉しそうに父親に抱きついた。
パパ!?と驚きの声が上がった。

「ごめんごめん、みんなの反応が面白くてつい」

「なんでほむらが?」

「あの子、ちょっと用事があってね。預かったんだ」

「ほおくん、おるすばん!」

「留守番か、偉いな」

頭を撫でられて、ほむらはとても満足そうだった。

「似てなくない…?」

ぽかん、としている同級生たちの中で、上鳴が発した言葉に轟は眉間に皺を寄せた。

「…気にしてんだから、言わないでくれ…」

「あ、ごめん…」

「轟の子ってことは…じゃあ」

「ママは…泉ちゃん?」

「そうだよ。轟ほむらくん。僕の甥っ子。ね、ほおくん?」

尋ねられても分からず、首を傾げながら、うん!と元気よく答えた。

「にしても緑谷に似すぎじゃないか…?」

「本当にね。僕もびっくりだよ」

「ヒーローデク、隠し子発覚!…なんてな」

瀬呂、峰田がわはは!と笑う。

「やめてよ…!本当に撮られちゃったら、シャレにならないんだから」

「そうなんです…実はお兄ちゃんの隠し子を育ててるんです…」

すっと後ろから顔を出した泉が、深刻そうに告げた。

「泉ちゃん…!?」
「泉!?」

「ママぁ!」


母親に会えた喜びで、父親の腕からおちんばかりの勢いで暴れるほむらを泉は手を伸ばして抱きかかえた。

「ただいま、ほおくん。いい子だった?」

抱っこした息子を愛おしそうに頬ずりをする。ほむらはくすぐったそうに笑いながら、元気よく返事をした。

「うん!」

「皆さんお久しぶりですー!ご無沙汰してます!」

笑顔で兄と夫の元クラスメイトたちに挨拶する泉とは違い、轟は驚きすぎて目を見開いていた。

「嘘だろ…泉…」

ショックを受けている轟に、泉はさきほどの緑谷と同じようないたずらっぽい笑みを浮かべた。

「やだなぁ、焦凍さんったら!そこは自信持ってください。ほおくんが生まれるときに、立ち会ったじゃないですか!それに、ほおくんの綺麗な青い瞳が焦凍さんの子どもだっていう何よりの証拠ですよ?」

「僕までびっくりしちゃったじゃないか」

安堵の息を漏らした兄に、今日は預かっててくれてありがとう、と礼を述べた。

「それで、どうだったの?」

「ふふ、大当たり!」

泉は楽しそうに笑ってVサインを作った。その言葉に緑谷も嬉しそうに笑った。

「良かったね」

「何の話だ?」

「聞いたら焦凍さん、びっくりしちゃいますよ」

「もったいぶらないでさっさと教えてくれ」

「最近調子悪かったので、今日病院行ってきたんです。もしかしてって思ってたらそのまさかで!」

また、ふふと笑いがもれる。
抱かれた息子も母親が笑ってばかりいるのが不思議なようだ。

「ママ?どうしてわらってるの?」

「ごめんね。ママ嬉しくってね、つい笑っちゃうの」

「泉…まさか」

「そのまさかですよ。子どもが出来ました!」

目を大きく見開いた轟は、すぐに泉を抱きしめた。

「焦凍さん、喜ぶのはまだ早いんです」

くすくす笑う泉から少し体を離し、楽しそうな妻に首を傾げた。

「まだ何かあるのか?」

「それがですね、あるんですよ!」

「もしかして…!」

お兄ちゃんの声に頷いた。

「そうなの!お腹に来てくれたのは、1人じゃないんです」

抱きしめていた腕を緩めて、轟は泉のお腹に手を当てた。泉はとても幸せそうににんまりと口元を緩ませていた。

「私ね、双子を妊娠したんです!子どもが一気に2人も増えるんですよ。とっても賑やかになりますね」

轟は先ほどよりも強く、妻と子を抱いた。


「パパ!くるしいよ!」

「ほむら、分かるか?家族が増えるんだ。お前は、お兄ちゃんになるんだぞ」

「お兄ちゃん?」

「そうだよ。ほおくんにね、妹か弟が出来るんだよ」

「いもうと…!おとうと…!」

「すっげぇ幸せなことだ…ありがとう泉」

「まだ生まれてないんですが…焦凍さんは大袈裟ですねぇ」

呆れながらも、泉は楽しそうにため息をついた。


「あーすまんね、2人とも。ここ店ん中なんだわ」

「続きは家でやれよなー」

「そうでした!」

ハッとする泉だったが、夫は体を離してくれる様子はない。

「なんかこのやりとり懐かしいわね」
「昔は緑谷と泉だったけど」
「懐かしいー!よく2人でイチャイチャしてたよねー!」
「してたね!教室とか寮とか、ところ構わず抱き合ってね」
「だ、だって…!あれは僕たちの普通だったんだから!」

「今日は帰る」

「え!?」

急に真剣な表情をした轟は、妻をまっすぐに見つめた。泉は驚いて素っ頓狂な声を出してしまった。

「だめですよ!?皆さんで集まる貴重な機会なのに!」

「泉が心配だ」

心底心配そうな轟は、妻の手を握りしめた。

「大丈夫です。タクシーで帰りますから」

「でも」

尚も心配そうな顔をする轟に泉は大丈夫です、と繰り返して笑いかけた。

「何してんだ」

「かっちゃん!」

泉とお兄ちゃんの驚いた声が重なった。

「泉?…チビもいんのか、どした」

「かっちゃん!かっちゃんかっちゃん!!」

母親に抱っこされていたほむらは、爆豪の姿を認めるなりはしゃぎだした。

「ほおくん…危ない…!」

ぐにゃりと軟体動物のように身体をしならせると降りてしまった。
母の声など届かず、ほむらはだっと走って爆豪の足にまとわりついた。

「かっちゃん!かっちゃん!」

「よお、チビすけ。元気か」

爆豪はほむらを軽々と抱き上げた。

「元気だよ!」

嬉しそうに笑って、首に抱きついた。

「お兄ちゃんにほおくん預かっててもらってたの」

ほむらのかっちゃん好きにため息をつきながら、ここにいる理由を述べた。

「光は」

ビジネスパートナーである幼なじみはあいにく仕事で、子守を頼むことができなかった。

「ぴかちゃん、きょうはやきん!」

「病院に行ってきたの」

「病院?どっか悪いんか」

「んーん」

笑って首を振る泉に、爆豪は眉間に皺を寄せた。

「家族がまた増えるんだよ!しかも、双子なの!」

「ほおくん、おにいちゃんになるの!」

「良かったな」

頭を撫でようと爆豪が近寄るが、阻止するように轟は泉を自分の方に引き寄せた。

「焦凍さん?」

不思議そうに夫を見上げると、少し機嫌悪そうに眉間に皺を寄せていた。

「俺の嫁さんに触るな」

「残念だな、俺の妹でもあるんだよ」

「かっちゃん、僕の妹だよ…。君たち血が繋がってないでしょ」

爆豪は緑谷の言葉を無視して、ほむらに問いかけた。

「…てめぇの親父は独占欲が強ぇなぁ?ちびすけ」

「ほむらに余計なことを教えるな、爆豪。息子は返してもらう。ほら、ほむら来い」

轟が手を出すが、ほむらはプイッとそっぽを向いてしまった。

「や!」

「ほ、むら…?」

「かっちゃんとのじかんは、ゆうげんだってママがいってた!」

「なっ…!?」

勢いよく轟が振り返ったが、泉はそれを知らんぷりして爆豪に抱かれているほむらに手を伸ばした。

「ほら、そろそろ帰る時間だよ」

「はぁい」

「大丈夫か、途中まで送るぞ」

「大丈夫ですよ。ほんと焦凍さんは心配性なんですから」

「でも。妊娠してんだから、勝手が違うだろ」

「無理はしません。約束します」

「ほむら、ママが具合悪そうなのに何かしようとしたら止めてくれ」

「はーい!」

元気よく返事をするほむらの頭を、轟は優しく撫でた。



「轟すっかりパパだねぇ」
「そうね」

蛙吹と芦戸が楽しそうにニコニコ笑っていた。

「父親になりたくない、なんて泣いてた轟ちゃんが懐かしいわ」
「子供を愛せるかわかんない、なんて言ってたのにねぇ」

「…泣いてねぇ」



そして…
2人の間に生まれた双子は、赤髪と白髪の女の子だった。

「まさか今度は私の遺伝子がないとは…」
「いや、あるだろ。2人とも泉と同じ瞳の色してる」
「うちの子たちは極端ですねぇ。お義姉さんの髪みたいに、もっと混じった色しても良かったのになぁ」
「そうだな…」
「ともあれ、はじめまして。雪。紅。私があなたたちのママだよ」




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はい、というわけで家族が増えました!第二子第三子は双子の女の子です。名前は雪(ゆき)と紅(べに)。
どうぞよろしくお願いします!
補足ですが、ほおくんの誕生日のあとに産まれますので、4歳差になります。

ちなみに、ぴかちゃんは爆豪妹の名前が上手に言えなくて、そのまま呼んでる感じです。本人も笑って許してくれてます。あだ名なので、変換なしにしておきます



どうでもいい話ですが、このお話は『ラブ&ヒーロー』を書き始めた当初に、自分のネタ帳に書き殴ったお話のひとつで、今回のお話と『第一子妊娠の話』は書いた順番が実は逆なんです。

轟が、たびたび奥さんに「焦凍さんもたまには冗談を言った方が良いですよ」と言われたことを思い出して、「俺と緑谷の子だ」っていうルートも書きました。今回はカットしましたが、いつかおまけで載せようかな。

「父親になりたくない、なんて泣いてた轟ちゃんが懐かしいわ」と言った梅雨ちゃんの言葉に何それ書きたい!!となって、書いたのが『第一子妊娠の話』なんです。さらに言うと間に『待ち受け画面の話』も入るんです。今回のサイトに載せるため若干手を加えましたが、書いた順では
『幸せはひとつじゃないって話』
 ↓
『待ち受け画面の話』
 ↓
『第一子妊娠の話』
となります。どーでもいいですが、この順番で書いたので、よく考えるとなんか変な言い回しになってたりします。



2021.09.01


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