ラブ&ヒーロー

□誰よりも私のヒーロー
1ページ/1ページ





「オールマイト格好良いねぇ…!」

「な!強いヒーローはたくさんいるけど、やっぱオールマイトだよな!」


幼い頃、テレビの前でお兄ちゃんと二人。敵と戦うヒーロー達の姿を見てははしゃいでいて、オールマイトの姿が映る度にヒーローごっこで真似をした。
個性も発現して、ママたちに見つかると怒られるから、お兄ちゃんと一緒に隠れて特訓をした。戦うのではなく、個性を自由に使うために。


「お兄ちゃん雄英受かったの!?」

「たりめーだ!」

「さすがだね!ギューしてあげる!」

「うおっ、飛び付くなって言ってんだろーが!」


お兄ちゃんのことが大好きで、大好きで大好きで大好きだったから、クラスメイトに告白されてもテレビに映るヒーローがどれだけ格好良くても、私の目指すものは“お兄ちゃんが可愛いと言ってくれる自分”だった。
雄英に進学するお兄ちゃんは何よりの自慢。小さい頃から個性を自由に操り、友達からの尊敬の眼差しを集めるお兄ちゃんが自慢。お兄ちゃんは格好良くて強いから、そのせいで私への風当たりが強いときもあったけど…。


「私も雄英に行きたい」

「お前なら行けるだろ」

「うん、頑張る。お兄ちゃんと同じ学校通う!」

「じゃあ次の期末は学年1位取れよ」

「がん、ばる……泉がほんっと頭良いから、苦手科目頑張らなきゃ」


幼馴染の泉。と、泉のお兄ちゃんのいずくん。いずくんは無個性なんだけど、でもいずくんも雄英に受かったって聞いた。お兄ちゃんといずくんは仲が悪いけど、妹同士の私と泉はすごく仲が良い自信がある。お兄ちゃんの次に大好きなのが泉。可愛い。個性もすごい。まあその個性がどれくらいすごいのか知ってるのは私だけだけどね。ふふ。


「お兄ちゃん寮で暮らすの!?なんで!!」

「なんでって学校でそう決まったんだよ」

「え!やだ!毎日会えなきゃ死んじゃう!」

「お前が雄英に受かれば毎日会えるだろ」

「そっか、そうだね。受かるわ」


お兄ちゃんが雄英に進んでから、雄英ではいろんな問題が起きている。私からしてみればお兄ちゃんがどんどん強くなってるから良い刺激なんだなって思うけど、敵に連れ去られたと聞いたときは正直死にそうだった。大荒れした。お兄ちゃんが帰って来なかったらどうしようって。


「ね、寮の見学とか出来ないのかな?」

「知らねー」

「学校見学とかあるじゃん!行きたい!」

「まあ…身内なら手続きとかすりゃー来れんじゃねーの?知らねーけど。雄英セキュリティ高くしてるしピリピリしてっからな」


お母さんに相談して、学校の先生にも相談して、雄英にも電話して粘ったら案外簡単に見学の許可が下りた。身内なら構わない、と。ついでに泉も誘って、次の金曜日、放課後に雄英見学へ行こうと決めた。土曜日はお兄ちゃんが補習らしいから無理だと。


「ヘイリスナー、揃いも揃って問題児二人の妹だって?悪いがまだ授業中だ。もうすぐ終わるけど授業も見てくか?」

「わー!プレゼント・マイクだ!」

「本物だ…泉色紙持ってる?」

「持ってない!」

「ちょっと今度サインください!お兄ちゃんに渡してください!」

「お安い御用だぜリスナー!で、授業は見る?見ない?」

「「見る!!!」」


学校に着くとあのプレゼント・マイクが案内してくれた。1年A組の教室まで案内してもらう。後ろ側のドアから静かに中を覗けば、お兄ちゃんといずくんが前後に並んだ席で授業を受けているのが見えた。


「お兄ちゃんたち、ちゃんと授業受けてるんだね…」

「だね…寝てないし意外だよね」

「お兄ちゃんは寝ないと思うけど、かっちゃんも真面目に受けてるね」


お兄ちゃんが授業を受けている姿を見るのは貴重だ。真面目な顔好きなんだ。どんなお兄ちゃんも大好きだけど、お兄ちゃんはあれでて素直で真っ直ぐだから、何かを得ようと真剣に吸収している姿がとっても格好良い。
それにしても、雄英だけあって個性的な人たちが多いんだなあ。先生もプロヒーロー揃いだからやっぱり個性的だし。


「お、HRになったな」

「もう終わりますか?」

「担任のイレイザーの授業だったからな。あと5分もすれば終わるだろーぜ!」


じゃ、あとは兄ちゃんたちに案内してもらえ、帰りに許可証返すの忘れんなよ。
そう言って、プレゼント・マイクは離れて行った。泉と二人並んでHRが終わるのを待つ。鐘が鳴るより早く、何人かの生徒がガタガタと音を立てて椅子から立ち上がったから、やっと終わったのだと理解した。

入っていいかな、ダメかな。顔を見合わせながら中の様子を伺う。すると前のドアから担任の先生、イレイザーヘッドが出てきて私たちを見つけた。一瞬驚いた顔をしてから、私たちが来ることは聞いていたのか納得した顔をする。中に入ってもいいぞ、と無言のまま示してから、彼は歩いて行ってしまった。


「行こっか」


泉が言う。その言葉を合図にガラッと勢い良くドアを開ける。視線がこちらに集まって、不思議そうな表情に何だか面白くなる。


「おに「お兄ちゃあああああん!!!!!!!」」


……泉に先を越された。私より先に駆け出した泉が、一直線にいずくんのところへ駆け寄る。というか突撃した。お兄ちゃんの目の前でいずくんに抱き着いた泉。ほんと可愛いよなあいつ…。


「緑谷の妹か!?」

「えっ、ちょっと、泉!?どうしたの!?」

「会いに来たの!光も一緒!」


私も彼らのほうへ歩いていく。お兄ちゃんが少しムッとした顔で私の前髪を掻き上げるように頭を掴んだ。


「おい、来るなら言えよ」

「寮見に行きたいって言ったよ」

「違うわ日にちを教えろってんだ」

「サプライズ!嬉しいでしょ!?」


そのままわしゃわしゃと私の髪を荒らすお兄ちゃんに腕を伸ばす。ギュウッと抱き着けば呆れたように溜息を吐きながらも片腕で優しく抱き締めてくれた。


「え、爆豪の彼女?」

「何この二人、可愛い…」

「うっせえわ光を見んじゃねー!」

「え、彼女…?」


いろんな声が聞こえるけどどうでもいい。ちらりと横を見れば泉は困った顔をしながら律儀に「緑谷泉です。お兄ちゃんの妹です」と挨拶していた。偉いなあ。


「で、この子は?」

「……あ!腕相撲の人?」

「え?」

「そのあとお兄ちゃんに負けた人」

「クソ髪な」

「切島鋭児郎だ!」


赤い髪が印象的な人。大丈夫だよ、体育祭観に行ったもん。名前くらい把握してる。


「で、この子は爆豪の妹?」

「どことなく似てるな…」

「ああ!?うっせえわてめえは話しかけんなお兄ちゃんとまともに遣り合えないクソ舐めプ野郎が!!!」

「光ちゃん!口悪いから!!」

「光…!轟さんに何を…!」

「うっせえわクソデクが光に文句付けんじゃねー!」

「理不尽!」


兄弟揃って口悪いのか、と周りから声が聞こえた。うっさいわそこの氷&炎野郎がヘタレなの知ってんだからな。体育祭のあの酷い結末は許せたもんじゃない。泉に何と言われようともそこだけは譲れない。


「この子はかっちゃんの妹で光ちゃんっていうんだよ」

「チッ」

「名前教えただけで舌打ちしないでよかっちゃん…」


いずくんに紹介されてしまった。まあいいか名前くらい。クソ髪と呼ばれた切島さんが、まじまじと私の顔を覗き込む。この人、お兄ちゃんと同じくらい身長あるんだな。見下ろされるのがちょっと気にくわない。


「爆豪の妹だけあって目付き鋭いけど、可愛い顔してんのな」

「ああ?どういう意味だこら。私に喧嘩売ってんのか」

「違う違う、ごめん。でもいつも爆豪を身近で見てっからさ。兄弟は似るっていうけどなんか新鮮だなって思って」

「意味わかんねえこと言うんじゃねえぶっ飛ばすぞ」

「光ちゃん口がどんどん悪くなってるよ…」


しかし、まあ、これがお兄ちゃんのクラスメイトか。中学の時は友達っていうより取り巻きがいるって感じだったけど、いまのお兄ちゃんの周りには友達って感じの人がいるんだなあ。良いことだ。たぶん。


「んなことより光、寮見に来たんだろ。さっさと行くぞ」

「そう!見る!ほら泉もいずくんも!」

「デクはいらねー。ほら泉さっさと来い」

「うん!かっちゃんの部屋気になるー!」


お兄ちゃんの左腕を私が、右腕を泉が取る。お兄ちゃん両手に華だね、やったね。


「緑谷の妹は…爆豪と仲良いんだな…?」

「ざけんな二人とも俺の妹だわ」

「ちょっと!泉は僕の妹だから!」

「うっせえ付いてくんな!」

「俺も混ぜてくれよ!楽しそうだし!」


どうして切島さんまで着いてくるのか。あ、お兄ちゃん溜息吐いた。いいなあ、楽しそうだなあ。私もここに受かって、来年はお兄ちゃんと一緒に通ってるのかなあ。


「光ちゃんの個性ってどんな?」


切島さんが話しかけて来た。


「は?名前で呼ばないでくれる?」

「だって二人とも爆豪じゃわかんねえだろ?」

「光ちゃん俺とデートしない?」

「は?」

「光、アホ面は放っとけ」

「ひでえ」


雄英高校。学校そのものに憧れは無いけど、この空間には私の憧れが詰まってるなと思った。ここにお兄ちゃんと、そして光と通ったら私もヒーローになれるのかな。ま、別にヒーローになりたいわけじゃないんだけど。


「楽しそうだね、雄英!」

「そうだね。受験頑張る気になるわ」

「だね。光と一緒に、私もここに通うから」


お兄ちゃんに可愛いと思われていたい。それが私の動力源の80%ってところなんだけど、でも可愛さっていうのは見た目とか愛嬌とか、そういうのだけじゃないんだよね。


「個性も磨いて、来年の体育祭は私が全員ぶっ飛ばしてやる」

「えー!私だって負けないから!」


弱い女の子が可愛いなんて、ふざけたこと吐かさないで。守りたくなる?攻撃するなんて以ての外?くだらないね。

圧倒的な強さと頭の良さ。可愛い見た目とか愛嬌なんて二の次で良い。お兄ちゃんと肩を並べて戦えることが最高に可愛い妹でしょ?


「んなことより泉、あんたあのヘタレ舐めプ野郎と話してないじゃん」

「だって…!心の準備がまだ…!」

「ま、舐めプじゃなくなってからじゃなきゃあんたをあいつにはやらないけどね」

「おい何の話してやがる」

「お兄ちゃんには内緒。お兄ちゃんが誰よりも最高だって話だから気にしないで!」

「……ぜってえ嘘だろ」


どんなときでも私を笑顔にする最高のヒーローは、お兄ちゃんだけだからね!



Fin.



To:七菜様。
サイト復活おめでとう!
2017.08.08
次の章へ
前の章へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ