ラブ&ヒーロー

□緑谷兄妹の日常
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「失礼しますっ!」

休み時間になってすぐ、授業を終えた先生と入れ替わるように泉がやってきた。クラスメイトたちは泉の訪問に慣れたのか、特に気に留める様子はない。

「お兄ちゃんっ!手!貸してっ」

僕の席まで来るなり、妹は鼻息を荒くして言った。

「手?何か手伝うの?」

立ち上がろうとすると妹は違うよ!と笑いながら、お兄ちゃんの手を借りたいの。触っていい?と僕の手を指した。

「いいけど…」

不思議に思いながら、座り直した。妹は満足そうにやった!と喜んで、隣席の椅子を引き寄せて腰をおろした。

「右?左?」

「じゃあ…右!」

僕が右手を差し出すと、泉は熱心に触り始めた。掌をさすったり、裏返して甲を撫でたり、指を何故か一本づつ軽く引っ張るように触ったり、軽く握らせては開いてみたり…。一体妹は何をしたいのか。

ちょっとくすぐったい。笑ってしまいそうになるのを我慢していると、妹は手から目を離さずに呟いた。

「ねえ、お兄ちゃん」
「うん?」

今度はマッサージするように手を揉みながら妹は言った。

「お兄ちゃんの手って…大きいよね」

「えっ、そうかな?」

驚いて聞き返すと、
「そうだよ、ほら」

妹は僕の手を持ち上げて、自分の左手をくっつけた。ふた回りちょっとくらい大きさが違った。小さな手…泉の手がこんなに小さかったことに驚く。
年子だから年齢差や成長の差をあまり感じずに育ってきた。だけど、高校生になって性差がはっきり出るようになってきたのか。女の子なんだなあ、と改めて思う。

「ね?」

僕が思い耽っていると、泉は顔を傾けて可愛らしく笑った。

「泉は女の子だから、比べたら違うに決まってるでしょ」

僕も妹の手を握ってみる。すると泉は握られた僕の手を自分の頬に寄せた。

「私お兄ちゃんの手好き。大きくてかっこいい」

愛おしそうに言う妹は兄の僕から見ても可愛いと思えるほどだった。兄だから可愛いと思うのかな?いやどう見ても可愛いけど。

「ぼろぼろだよ」

困ったように頬を掻きながら言うと、妹はとんでもない!とでも言うように首を大袈裟に振った。

「人を救ってきた手だよ。そんな手が格好良くないわけないでしょ!私はゴツゴツしててもこの手が…お兄ちゃんの手が大好き」

力強く言う妹に力をもらった気がした。

「えーっと…….反応に困るなぁ…。うん、でもありがとう」

つられて照れてしまい、えへへと2人して照れながら笑った。


「おいそこの兄妹。ここが教室だって忘れてないか?」

泉が座っている椅子の主人である瀬呂くんが呆れ顔で言った。いつの間にか泉の後ろに立っていた。

「あっ!?」

泉が驚いて振り返ると、瀬呂くんは片手を上げて挨拶をした。

「よっ、妹ちゃん」
「瀬呂さん…!」
「そういうのはさ、2人きりのときにやってくれな、頼むから。見てるこっちが恥ずかしいわ」
「ごごごごめん…!泉と話してるとつい気が緩んじゃって…!」

慌てる僕に瀬呂くんは呆れながら笑った。

「しっかしまあ、兄妹で手を取り合うなんて、よく照れくさくないよなぁ」

僕と妹は顔を見合わせて首を捻った。

「お兄ちゃん、恥ずかしい…?泉は恥ずかしくないけど」
「僕もそんな風に思ったことないなあ…」

「この兄妹、ほんとやだ」

瀬呂くんが言うと、周りのクラスメイトたちがどっと笑った。




〜オマケ〜
「俺のがデケェだろ」
前の席のかっちゃんがボソッと言ったのが聞こえた。
「え?なんて?泉聞こえなかった!」

絶対に聞こえてるはずなのに、泉は笑いながらとぼけた。

「あ!時間!お兄ちゃん、泉帰るね」
「うん、また」

手を振って妹は教室を出ていった。




2020.03.08

今更ですが、映画の特典冊子の表紙の出久の手が大きくてきゅんとしたので、思いついた話
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