ラブ&ヒーロー

□ロディさん、はじめまして!
1ページ/1ページ


「今度遊びに行くよ」と書かれた手紙を手に、ロディ・ソウルは空港で人を待っていた。
共に世界を救ってから約半年後の8月。忙しい合間を縫って会いにくるとのことだった。

「暇なのかねぇ…ヒーローは…」

おまけにロディに会いたい人を連れて行く、と書いてあった。

「なんだい、その俺に会たいやつってのは…」

「あ!いたいた!ロディー!」

久しぶりに聞く声に顔をあげると、半年前よりも少し逞しくなったデクがいた。

「…よお」

なんとなく気恥ずかしくなって、控えめに腕をあげた。しかし、個性であるピノが嬉しそうに飛び出していった。

「しまっ…!」

手を伸ばすが、ピノはもうデクに頬を寄せて嬉しそうにピィピィ鳴いていた。

「久しぶりだね、ロディ。歓迎してくれて嬉しいなぁ!元気だった?」

デクはピィピィやかましく鳴いているピノを撫でていた。

「夏休みに外国にバカンスとは、ヒーローは暇なんだなぁ」

皮肉ってみるが、ピノのおかげでバレバレなせいでデクは嬉しそうに笑った。

「暇、ではないけど…。君に会いに来たんだよ」

「そーかよ」

口ではそう言っているが、やはりピノは嬉しそうにデクに頬擦りをしていた。
ロディは楽しそうに笑うデクの隣に、口を左手で塞いだ少女がいることに気が付いた。ピノが不思議そうに首を傾げた。袖がフリルになったTシャツにデニムの短パン。そして、デクと同じ赤い靴を履いていた。


「なんだい、その子は」


少女は瞳をとてもキラキラさせながら、デクとロディを見比べた。口を塞いでいない方の手で、デクのシャツの裾をぐいぐい引っ張った。

「あ、ごめんごめん。もういいよ、ゆっくりしゃ」

デクが言い終える前に、瞳をより一層輝かせた少女が、ずいっと無遠慮にロディに近づいた。

「はじめまして!泉と言います!私と追いかけっこしてくれませんか!?」

ロディは怪訝そうに眉を寄せた。デクは額に手を当てて、大きなため息を付いていた。

「説明してくれ、デク。紹介したい奴ってのはこいつ?おめぇの…」

ん?とロディが何かに気がついて、泉をまじまじと見つめた。口元を覆っていた手がなくなり、顔全体がよく見えるようになって、くりっとした瞳やふっくらとした顔付きがデクによく似ていると思った。

「彼女かって思ったが、ちげぇな。よく似てる」

「うん、僕の妹」

「その節はお兄ちゃんが、ほんとーに!お世話になりました!」

深々とお辞儀をしてから、泉はにっこりと笑った。快活そうなところはあまり似ていなさそうだと、ロディは思った。

「お兄ちゃんからいっぱいお話聞きました!街中を追いかけっこしたときのロディさんの身のこなしがとっても俊敏だったって!お兄ちゃん、個性使ってもなかなか追いつけなかった、って悔しがって…。あ、ロディさんって呼んじゃいましたが、ファミリーネームの方が良かったですか?」

早口で一気に喋るので、ロディは面食らっていた。デクのそばにいたピノはいつのまにか、ロディの胸ポケットの中に収まっていた。デクが妹を引っ張って少し後ろに下がらせて、顔の前で手を合わせた。

「ごめん、ロディ。この子、パーソナルスペース狭いんだよ。勢いよく喋るから、びっくりしたでしょ」

「ま、まあな…」

英語でロディに謝ると、デクは妹の方を向き、日本語で何か小言を言い始めた。

「泉。初対面の人にそんなに一気に捲し立てたらダメだって、いつも言ってるじゃないか。そんなに近寄っても相手をびっくりさせるだけなんだから、もうちょっと下がって」

「だってだって!お兄ちゃんから話聞いてるせいか、知らない人って感じしないんだもん」

日本語で何か言い合っている。


「デク。ピノについては?」

友達となったデクの妹とはいえ、警戒心は解けないのか、個性について話したのかと遠回しに聞いてみた。

「ロディの相棒だって教えたよ」

デクはいたずらっぽく笑うと、ロディとピノはほっとしたように息を吐いた。

「ロディでいい。そっちは…」

「泉と呼んでください!ヒーロー名は考えてあるんですけど、まだ仮免持ってないので」

「へぇ。泉もヒーロー志望?」

「お兄ちゃんと一緒にヒーローになるのが夢なんです」

キラキラした瞳で夢を語る泉を眩しく思った。

「それで!追いかけっこはしてくれるんですか?私は個性の使用が出来ないので、個性なしの純粋な追いかけっこです!」

「この俺を捕まえようって?そりゃ土台無理な話だね。デクでも捕まえられなかったんだぜ」

ロディは余裕そうにため息を吐き、ピノは自信たっぷりにピィ!と鳴いた。

「身体能力だけなら泉のが上だよ」

デクが力強くいうと、泉は少し照れてはにかんだ。

「そんなことないと思うけど、ありがと!…お兄ちゃんが絶賛した華麗な身のこなしを見てみたいんです!」

そう言われちゃあ、見せない訳にはいかない。

「仕方ねぇなぁ」

ロディは少し恥ずかしそうに頭を掻きながら、ため息をついた。

「いっちょやってやるか」

「やった!」

「ロディ、人に迷惑をかけるようなことはしないでよ」

「へいへい」

「僕も下から付いていくね」






街全体を使った追いかけっこは、一応引き分けということになった。先回りした泉に驚いて、高さがあるところから落ちそうになったところをデクに助けられたのだ。
泉は驚かしてしまったことを謝った。



「地図を覚えてくんのもすげぇけど、よく俺に付いてきたな。デクなんてあっちこっちで止まってたのに」

2人はロディの家であるトレーラーの屋根に座っていた。

「もーその話はやめてよー。でも、泉の反応速度凄かったなあ。僕が引っかかったトラップをなんなく避けてたね」

「しかも笑いながら。すげぇな、お前の妹」

「でしょ?僕の自慢なんだ」

にひひと歯を出して自慢げに笑うデクに、ロディはこいつはこんな顔もするのかと思っていた。



「ロディ。お兄ちゃん」

トレーラーから出てきた泉は、少し勢いをつけると、軽々と屋根に登ってきた。

「ロロとララ、寝たよ」

幼い弟妹はあっという間に、人懐こい笑顔の泉に懐いていた。一緒に遊んで、ちょっとした日本語まで教わっていた。
寝るまで一緒にいてほしい!とだだをこねるララに泉はにっこり笑って、いいよ!と請け負ったのだ。

「帰国する日が今から怖いねぇ」

笑いながらいうと、ピノが泉におずおず近寄ってきて頬ずりをした。

「なあに、ピノ。やっと私に慣れてくれた?」

泉が嬉しそうに話しかけると、ピノはもじもじしながら泉の肩に止まった。その様子をデクは微笑ましげに見ていた。
ロディは顔を逸らして、ピノを見ないように努めていた。

「ねぇ、ロディ」

そっぽを向いてしまったロディに泉が優しく声をかけた。ロディは少し不服そうに振り返った。

「…なんだよ」

「私ね、これが言いたくてここに来たの」

泉はロディの両手を取ると、大事そうにぎゅっと握りしめた。ロディが手を取られたことに驚いていると、泉はまた優しい声でロディ、と呼んだ。

「お兄ちゃんと友だちになってくれてありがとう」

昼間によく見せていた楽しそうな笑みではなく、慈しむような微笑みだった。自分の方が歳が上のはずなのに、泉はまるで母親のような笑みを浮かべていた。
その笑みにロディは惚けてしまった。ピノがすかさず泉の頬にキスをしようとするのを、デクがピノを捕まえて阻止した。


「いくらピノでも、それは僕が許さない」

にっこり笑って言うが、目は笑っていない。

「それって?」

きょとんとして首を傾げる泉に、ロディは慌てて手を振り払ってピノを奪い取った。

「泉は知らなくていいんだ!」

「ロディ〜!妹はあげないよ!」

「うるせぇ!つーかお前、妹好きすぎるだろ!」

「可愛い妹が好きで何か悪いことでもある?ロディだって妹が可愛いでしょ?!」

「俺の可愛いとデクの可愛いはなんかちげーだろ」

「一緒だよ!?」

「2人とも静かに!ロロとララが起きちゃうよ…!」

2人を諫めながら、泉は嬉しそうに口元を緩ませていた。

「なんかお兄ちゃんが普通の少年みたい」

「えぇ?何それ」

ふふふ、と意味ありげに笑うと泉は腕時計をみて驚いた。

「お兄ちゃん、そろそろホテル行かなきゃ。泉行き倒れちゃうよ」

「眠くなったら僕がおんぶしてあげる」



----------
映画観て、ロディと追いかけっこしたい夢主を書きたかったのですが、追いかけっこシーンを書けるはずもなく…。前後のみになりました。
ロディの喋り方こんな感じで良かったのかな…。


2020.08.18


次の章へ
前の章へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ