ラブ&ヒーロー

□夜の散歩
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もう出産間近の大きなお腹を抱えながら、私は夫が帰ってくる道を歩いていた。

早めに梅雨明けした7月中旬、臨月を迎えていた。
もういつ産まれてもおかしくない、膨らんだお腹をそっと撫でた。私はたっぷりとしたワンピースを着て、夏の夜を感じながら歩いていた。

少し肌寒いくらいに涼しい。

「パパに早く帰ってきてほしいねぇ」

おなかに向かってに話しかけると、我が子は返事をするようにお腹を蹴った。

「そっか、あなたも会いたいよね」

優しく撫でて返事を待つが、今度は何の反応もない。寝てしまったのかもしれない。笑みが溢れた。

寂しいので、犬のおまわりさんを歌いながら歩いていく。歌い終わったら、あめふりくまのこを歌う。
お腹をつんつんしながら、おもちゃのマーチを歌っていると、前から焦凍さんが歩いてきた。
私の姿を見つけると、驚いて小走りにやってきた。

「おかえりなさい!」

「ただいま。…今日も来たのか…」

呆れて深いため息をつく。

「はい、迎えに来ました!」

パパを迎えに来たんだよねー?とお腹をさすりながら、話しかけた。

「外で何かあったら、どうする」

心配そうに言う焦凍さんが可笑しくてクスクス笑う。 

「動かないと余計に体に悪いんですよ?それに、ずっと家にいたら息が詰まっちゃいます」

それでも心配そうな夫の手を取って歩きだす。

「この子が生まれたら、こうやって2人で静かに散歩もできなくなっちゃうんですよ。そんな心配そうな顔をしないでください。私は大丈夫ですよ」

「俺は、泉を失いたくないだけなんだ」

「何言ってるんですか!?」

あはは!と笑い出すと、隣に並んでいる焦凍さんが口を尖らせていた。そのとき、お腹の中の子がぐにゅぐにゅと動いた。

「あ!焦凍さん、今動きました!」

私は繋いでいた焦凍さんの左手を丸く膨らんだお腹に当てた。またお腹の子がぐりんと回転した。

「動いた…!」

驚いて顔をあげた焦凍さんは、少年のように目を輝かせた。そのことに嬉しくなって微笑むと、焦凍さんは恥ずかしそうに顔を逸らした。

「早く帰るぞ。腹へった」

お腹に触れていた手を繋ぎ直して、焦凍さんは歩き出した。手を繋ぐのを恥ずかしがらないのが、私にはすごく嬉しい。

「…今日の夕飯は?」

「肉じゃがを作りました!あと、いんげんの胡麻和えと、きゅうりの浅漬けと、ごはんとお味噌汁です!」

「豪勢だな」

「ヒーローは体が資本ですから!」

「…泉もだろ」

「今はヒーローじゃないですよ?」

「しっかり食べて、子どもを育てなきゃなんねぇだろ」

「そうですね…!」

焦凍さんが少し力を込めて、手を握ったので私も握り返した。

「私、幸せです」

「そうだろうな」

口元にうっすら笑いを浮かべているので、焦凍さんも同じように思っているのだと私はとても嬉しくなった。





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夜に散歩をしていたら涼しかったので、思いつきましたが、あまり膨らみませんでした。

2021.08.22


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