ラブ&ヒーロー

□なんかじゃないんです
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お昼ご飯の後、空を見上げると気持ちのいい秋晴れだった。外へ出て日に当たったら気持ち良いんだろうなぁと思った。

「ちょっと日向ぼっこしに行ってこよっかな」

そう言うと光はじっと私を見つめてから、分かったと頷いた。
1人になりたいと口にしたわけではないのに、光はいつも私のしたいことを知っている。

「ありがとう。光大好き」

笑って言えば、光も同じようにあたしも好きだよ、と言ってくれた。いつもと何も変わらないやりとりだけど、嬉しくなってにやけてしまった。
光はじゃと手を振り、教室へ帰っていった。




人気のない場所を探して外をウロウロしていると、中庭にぽつんとベンチがあった。太陽の光で温められていて、気持ちよさそう。あそこで日向ぼっこをしよう。周りに誰もいないことを確認してから、腰をかけて息を吐いた。

轟さんのことを思い浮かべる。最近好きですと伝えるたびに、きゅっと眉間に皺を寄せてしまう。どうやら無意識らしい。
どうしてそんな顔をするのか、知りたい。だけど、聞いてしまったら、私たちの関係が壊れてしまうかもしれない。

…壊れてしまう…?

何の関係性も持っていない私たちが…?私が好きですと一方的に言っているだけで、私たちは「友人の妹」だし「兄の友人」だ。

ただ好きでいるだけで良い。その先は望まない。気持ちを返してもらおうとは思ってない、なんて言ったくせに、壊れてしまうなんて何を言ってるんだ。


考えながら空を眺めていると、後ろから声をかけられた。

「泉?」

声だけで誰が来たのか分かってしまった。今でなければ良かったのに、と思いながら振り返った。

「…轟さん」

こんにちはと挨拶をする。

「何してんだ」

「天気が良いので、日向ぼっこです」

轟さんは空を見上げた。雲は少なく、青い空が広がっている。10月に入って風がずいぶん冷たくなったけど、陽射しは気持ち良いくらい暖かい。

「寒くないのか」

視線を私に戻して聞いてきたので、首を振って、そんなことないです、と否定をする。

「私体温高いですし、10月とか4月くらいって一番気持ちよくて好きなんです」

轟さんは何も言わずに、私の方を向いたまま隣に腰を下ろした。

「元気ないな」

「えぇっ?」

唐突な言葉に驚いて声が裏返ってしまった。

「何かあったか?」

今まさに悩んでいるのはあなたのことです!と言葉が出かかって、ぐっと飲み込んだ。轟さんのことで悩んでいるのは確かだ。でも、私が好きということで轟さんを悩ませているのかもしれない。

本当は聞いてしまいたい。
どうして私が好きだというと眉をきゅっと寄せるんですか?私が好きだと言うことで轟さんを困らせていますか?轟さんは私をどう思っていますか?だけど、答えを聞くのが怖くて何も言えなかった。

「えぇと…」

上手く取り繕うこともできずに、なんと答えようか必死に考えていると轟さんが罰が悪そうに顔をしかめた。

「悪い、言いたくないこともあるよな」

どうしたって、今の私にはその疑問をぶつける勇気はない。口をぎゅっと結んでしまった。

「少し待ってろ」

轟さんは立ち上がると、走ってどこかへ行ってしまった。
呆気に取られたまま待っていると、轟さんが何かを持って戻ってきた。手に持っていたものを私に差し出す。私が好きだと言った、いちごミルクだ。

「やる」

もらうのは、これで3度目だ。

「…泉を笑顔にしたい。そのために、俺が出来ることを教えてくれ」

少し息が上がった轟さんの言葉に、胸の奥がぎゅーっと締め付けられるような感覚に陥った。
何度も私に笑顔でいてほしい、と言っていた轟さんが、今度は私を笑顔にしたいと言った。それってもしかしたら…ほんの少しだけ、自惚れても良いのかもしれない。


「好きです」


いつものような告白に轟さんは、きゅっと眉を真ん中に寄せた。また苦しそうな表情をさせてしまった。自惚れるどころの話ではなかったんだ、と考えていると轟さんは静かに爆弾のような言葉を発した。


「…泉が俺なんかを好きになる理由がわからない」


私は反射的に立ち上がっていて、気がついたら轟さんを非難していた。

「ひどいです!私の大好きな人をなんかなんて言うのやめてください!」

本気で怒っている私を、轟さんはゆっくりと瞬きして見つめていた。

「…急にどうした」

「轟さんが私の好きな人を馬鹿にしたから、怒ってるんです!」

だん、だん、と地面を踏み鳴らした。轟さんはまだよく分かっていない。

「…泉の好きなやつ?俺は今俺の話をしたんだが」

「そうですよ!?轟さん今自分で言ったじゃないですか、俺なんかって!」

「意味がわからない」

分からないなら、分かりやすく言うまでだ。私は息を吸い込んで、口を開いた。


「轟さんは今!私が好きな人、つまり轟さんのことです!その人を、なんかって言ったんです。なんかじゃないです!まだ知り合って1年半くらいですが、轟さんの良いところを私、たくさん知ってます。一緒に歩いてるときには、歩幅を合わせないけど、置いていかないように時折振り返ってくれます。私が落ち込んでたら、笑ってる方が良いって言ってくれました!元気が出るようにって私の好きないちごミルクもくれました。優しい人です」

1年半の間にたくさんの時間を過ごした。たくさん轟さんを見てきた。轟さんの色んな面を見て、どんどん好きになっていた。

「それから強いんです!冷静な判断力に、迅速な対応。ヒーローとしても尊敬してます。素晴らしいところがたくさんある轟さんは、俺なんかっていう人じゃありません!いくら轟さんでも、私の好きな人のことを馬鹿にしないでください!」


マシンガンのように捲し立てたせいで、息が荒くなった。ぜーぜーと肩で息をしているなか、轟さんは思考停止しているのか、目を軽く見開いて驚いた表情のまま動かなかった。



「………」

轟さんがほっとしたように、しばらく見ていなかったとても優しい顔をして笑った。

「良かった」

その場にそぐわない反応に、今度は私が目を丸くした。

「え、よかった…?」

「…泉は俺にないものを持ってる。それがすげぇ眩しかった。それだけだったんだ。……良かった」

轟さんは安堵したように良かった、と繰り返しながら笑っていた。

「私が眩しい…?」

「泉は自分の気持ちに素直で、真っ直ぐだろ。それが俺には眩しかったんだ」

轟さんの言っていることはよく分からなかった。

「久しぶりに笑ってる轟さん見ました」

「…何か肩の荷が降りたような、すっきりした気分だ。ありがとな」

後ろで予鈴が鳴った。

「戻るぞ」

すっきりとした轟さんが立ち上がった。私はもらったいちごミルクを大事に抱きしめて、轟さんの後を追った。




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一回振り出しに戻ってしまった気がする。
って一言を書いてから、書き上げました。
そんな気はするけど、夢主ちゃん気づいちゃった。ちゃんと辻褄があってるかなと心配です。

轟くんたちの卒業が迫ってますね、一体どうなるんだろう。




2021.10.31


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