ラブ&ヒーロー

□緑谷兄妹の日常2
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「ねぇ、お兄ちゃん」

「んー?」

ノートに走らせていたペンを止めて、向かいに座っているお兄ちゃんに声をかけた。

「大好き」

言いたいときに言うのが、私のポリシーだ。お兄ちゃんにしてもいつものことだからか、顔も上げずに僕も好きだよ、と返事が返ってきた。

「お兄ちゃん、聞いてる?」

今日はちょっと適当な気がして、ムッとしてしまう。こっちをみて言ってもらいたいのに。

「聞いてなかったら、返事しないってば」

一定のリズムで走るシャーペンは、気持ちのいい音を立てている。

「泉が僕を好きって話しでしょ。分かってるよ」

「お兄ちゃん、泉がそれしか言わないって思ってない?」

「思ってないよ。…疲れたからって僕にちょっかいかけてないで、ちゃんと課題やりな」

「だって疲れちゃったんだもん。泉、お兄ちゃんにくっついて休憩する」

立ち上がって、お兄ちゃんの後ろに回る。お兄ちゃんに対して、横向きに座って寄りかかった。

「重い?」

「あったかくて気持ちいいよ」

お兄ちゃんはずーっとノートから目を離さない。ちょっと寂しい。

「疲れたなら、少し寝る?」

「寝なーい!お兄ちゃんにくっついてれば、元気になるもん」

「そう」

お兄ちゃんのそばにいると、すっごく安心する。目を瞑って耳を澄ませると、お兄ちゃんの心臓の音が聞こえてきた。ドクン、ドクン、と力強く鳴っている。気持ちがほぐれるというか、ここにいれば何の心配ないという安心感がある。
それから、お兄ちゃんがノートにシャーペンを走らせる音、時々かちかちと芯を出す音が聞こえた。考え込んで左手で髪をくしゃっとしたのか、体が倒れた。お兄ちゃんは泉が後ろにいるのを忘れてるのか、しばらくそのままでいた。
少ししてから、体勢を立て直すと、左手を動かす感じがあった。頭の上でお兄ちゃんの手が動いている気配がした。お兄ちゃんの指が私の頭に触れて、お兄ちゃんはそのまま指先だけで頭を軽く撫でた。

「んふふ…。なにー?」

思わず笑いがこぼれてしまう。

「寝ちゃったのかと」

「起きてるもん」

後ろからぎゅーをすると、お兄ちゃんの左手が腕を優しく撫でた。私、あやされてる。

「お兄ちゃん大好き」

「はいはい、よく知ってるよ」

元気でた!と言って、お兄ちゃんの前に座り直した。お兄ちゃんはさっきから変わらない体勢で勉強を続けている。

「ねぇ、お兄ちゃん」

「ん?」

お兄ちゃんはまた返事だけして、顔を上げない。

「泉のこと、好き?」

どうせ適当な返事が返ってくるはずだ、と思っていたら、お兄ちゃんが顔を上げた。

「好きだよ、泉が思っているよりもずっとね」

困ったように眉を下げていた。

「思ってるよりずっと?」

「そう。思ってるよりもずっと」

「泉の方がお兄ちゃんのこと好きだと思うよ?」

首を傾げると、お兄ちゃんは笑っていた。

「何でそんなこと聞いたの」

「今日は返事がちょっと適当だったから、本当かなぁって」

「課題やってる最中なんだから…。ほら、泉も集中して課題終わらせちゃいな」








「なんかさー、もう誰もツッコまねぇんだよなぁ…」

上鳴さんの大きめな呟きに、我に返る。ここ、お兄ちゃんの寮の共有スペースだった…!

「もうあれは緑谷兄妹の普通だからねー。慣れちゃった!」

お兄ちゃんも我に返ったようで、顔を見合わせた。

「ね。またやってるなーぐらいになってきた」

続け様に透さんと尾白さんがそう言って笑っていた。

「ごめん、みんな…。泉といると、気が緩みがちで…」





2023.02.27


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