ラブ&ヒーロー

□なんでそういうことを
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本格的に寒くなり始めた頃、学校内が妙にそわそわし始めた。なんだか雰囲気が違うななんて、のんびり思っていたら、ある日気がついた。


「そっか、もう卒業だからか」

たまたま目をやった外では、女の子が轟さんと一緒にいた。制服の肩のボタンで普通科の人だとわかる。

「なんかあった?」

立ち止まった私に光が抱きついてくる。

「告白かなぁ?」

「ん?」

窓の外を覗き込んだ光があぁ、と納得の声を出した。

「だろうね」

一生懸命だ。ただまっすぐに自分の気持ちを伝えようとしている。
その思いは私と変わらない。

「私さぁ…」

「うん」

「最近ね、ちょっと自惚れていいんじゃないかなって思うんだ」

「今更?」

「知ってたの?!」

あたしが知らないとでも?と言いたげな顔で私が観ていた。

「いつから?」

「泉より前」

「なんでそんな曖昧な言い方するの〜…」

光は何も言わない。

「どう思う?」

「どうって?」

「轟さん。気がついてると思う?」

「泉はどう思ってんの」

「絶対気がついてないと思う」


光は何も答えずに歩き出してしまった。

「光!?私の質問の答えは?」

「早くいこうよ」

曖昧に笑いながら光は歩き続ける。そのあと、轟さんのことを聞いても何も答えてくれなかった。



その日からしばらくして、また轟さんを見かけた。少し近づいてから、昨日一緒にいた人がいることに気がつく。
轟さんはいつも通りだ。あまり表情の読めない顔で、話を聞いている。さすがに会話の邪魔をしたくないけど、私の行きたい方はそっちなんだよなぁ。
ふいに轟さんが顔を上げた。私に気がついてすぐ表情が緩んだ。

好きだ。

仕方ない行くか、と軽く会釈をしてすれ違おうとした瞬間、手首を掴まれた。

「会釈だけなのか?」

振り返ると、眉を下げてた轟さんと目が合った。

好きだ。

口から出てしまいそうになるのを、必死に押しとどめた。
言葉と息を飲み込んだとき、喉が変な音を出した気がした。

「…こん、にちは…?」

絞り出すように挨拶をする。

「…言い方が悪かった。しばらく会えてねぇだろ。終わったら、話したいから一緒にいてくれ」

その台詞、あなたを好きな人の前で言ったらダメなやつだと思います。あなたには興味ないって言ってるようなもんだと思うのですが。
答えを聞くこともなく私の手を離さないままに、轟さんは振り返った。私もそっとその視線を追った。
案の定、びっくりした顔で私を見ていた。
そうですよね、びっくりしますよね。私も今とってもびっくりしてます。後で話しましょう、と言いたいけど、藪蛇になりそうで何も言えない。

「話の途中に悪りぃな、続けてくれ」

絶対続けられないと思いますよ…。
腕を少し揺すぶっても、轟さんは手首を握ったまま離してはくれない。痛くないようにそっと掴んでいた。

「あー…」

轟さんに促されるも困った様子で目を泳がせているうちに、私と目が合ってしまった。

「…緑谷くんの妹さん?」

「そうです」

困惑してるみたいだけど、敵意はなさそうだった。すぐに視線が轟さんに掴まれた手首まで下がった。

まだ知られたくない。しかも他人から言われたことで知ってほしくない。
どうかお願いします。何も言わないで。緊張で身を固くしながら、念じ続ける。

「呼び止めたのにごめん。用事思い出したから行くね。それじゃ」

絶対何か思っただろうに、何も言わなかった。なんて良い人…!
くるりと背を向けた、名前を知らないライバルに声をかけたかった。
でも、きっと私に声をかけられるのは嫌だろうな。


「ここ、どうしたんだ」

轟さんの手が私の包帯の巻かれた首元に触れた。昨日インターン中に自分の炎で火傷をしてしまった。驚いて、言葉を発せなくなってしまった。
手首を離そうともしないで反対の手で、轟さんは私に触れている。

「泉?」

どうしてそういうことするんだろう。私はあなたを好きなんですよ。






2023.07.28


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