『妹と僕』


日曜日の午前中。
日々の疲れを癒すため、遅く起きる者が多く、寮内は平日よりも静かだ。

そんな中、緑谷出久は普段通りに起床し、活動していた。
今日はあいにくの雨で、外へはトレーニングにいけないので、授業の復習や予習をするべく机に向かっていた。もちろん、片手では筋トレをしている。

勉強を始めて少し経った頃、一本の電話がかかってきた。
今寮の前にいるので、中へ入れて欲しいという旨の妹からの電話であった。
急いで玄関へ向かうと、暗い顔をして、どんよりとした空気をまとった妹がいた。
いつも動きやすいように結んでいる髪の毛は、少し寝癖がついたままで何もしていない。

「お兄ちゃ〜ん…。」
情けない声で兄を呼ぶ。

「とりあえず、中入ろう。」
玄関で先に靴を脱ぐとすぐ、妹が背中へのしかかってきた。
首には腕がまわされ、完全におんぶの体勢である。
しかし、兄は気にする素振りも見せずに、妹へ問いかけた。
「何か飲む?」
妹はその問いかけに小さく頷いた。


キッチンでお湯を沸かしている間、妹は一言も喋らずに、兄の肩に顔を埋めていた。
そこへ、峰田と上鳴が通り掛かった。

「み、緑谷!?」
「あ、峰田くん、上鳴くん。おはよう。」
驚いた様子の2人とは異なり、平然とした様子で緑谷は振り返った。
背中の妹は動かない。
「お前、背中に幽霊かなんかくっつけてねぇか!?」
「やっぱ、峰田にも見えるか!?」
青ざめる2人。
「妹だよ?」
緑谷は少し困った顔をしながら、頬をかいた。
「は!?」
「昔から、機嫌悪いときとか調子悪いときは僕の背中にくっついて離れないんだよね。だから、気にしないで」

「うっひょう!女子高生が背中に…!?その感触を味わってみてぇなあ…!ちょっと失礼して…」
峰田がすかさず近寄り、妹に手を伸ばした。
「あ、やめておいた方が…」
緑谷が言いかけるが、遅かった。
あと少しで、峰田の手が妹に届きそうなところで、頭上にオレンジの炎が降ってきた。妹が顔を上げていた。
「あちち!!」
炎が伸ばしていた手を掠めた。

「……峰田さん、次は急所燃やしますよ。」
冷たい声で言い放つと、また緑谷の首元に顔を埋めてしまった。

「…まじかよ…」
峰田はというと、引きつった顔のまま青ざめていた。

「どけ、あほ面。」
「爆豪!?」
上鳴を押しのけて、ずかずかとキッチンへ入っていき、緑谷の背中にくっついている妹に気がついた。聞かずとも、機嫌が悪いことはすぐわかった。
ごく自然に妹の頭を撫でた。
顔を上げなかったが、
「ココア」
と声がした。

「デクにやらせろ。」
意味をすぐに理解し、はっきりと嫌そうな顔をした。
「かっちゃんがいい。」
駄々をこねるような言い方だった。こういう場合は何を言っても意思を変える気がないのは、よくわかっていた。

「ケッ!」
吐き捨てるようにそう言うと、幼なじみはミルクパンを取り出して、手際よくココアを作り始めた。表情はほんの少し優しい。
この小さな幼なじみに頼られるのは、満更でもない様子だ。

「なんなんだよ!この対応の差は!」
「そりゃ、幼なじみなんだから、仕方ねぇだろ…。」
文句を言う峰田に、上鳴は同情するように肩に手を置いた。
緑谷は苦笑するばかりだ。


「できたぞ。」
しばらくしてココアが完成した。
マグカップの中に注がれたココアからは、程よく湯気が立ちのぼっていた。
「ありがとう、かっちゃん。」
顔を上げて、いつもと同じまでいかないが、口元に笑みを浮かべて喜んだ。
「はよ治せや。」
小さな頭を優しく撫でて、幼なじみは自分の飲み物と軽食を持ち、自室へと戻っていった。

兄は妹のココアと自分のお茶を共有スペースへと運び、ソファに浅く腰をかけた。
妹は背中にくっついたまま離れない。

「気をつけて飲んでね。」
そう優しく声をかけながら、妹にマグカップを渡した。

特に会話をするでもなく、静かな時間だった。

そのうち、妹はココアを飲み終えて、また兄の背中に自分の身体をぴったりとくっつけた。

「お兄ちゃん。」
まるで動物が甘える時のような、異様に甘ったるくゆっくりとした声だった。
「どうしたの。」
「お兄ちゃんの背中、広くなったね。」
「そうかな?」
「そうだよ、ヒーローみたいで凄くかっこいい。」
「なんだか照れるな…。ありがとう。」
「私ね、お兄ちゃん大好き。」
「うん、知ってる。僕も好きだよ。」
「ありがとう、お兄ちゃん…。」

その言葉を最後に、妹はサルの子どもが親にしがみついているかのように兄の背中にしがみついたまま、寝息を立て始めた。




※ちなみに葉隠さん見てました。
「なにあの会話!めっちゃ恋人みたいだった!!」
後日クラスメイトに知れ渡ることになったが、緑谷はよくあることで、ああ言うと安心するんだと平然と言ってのけ、クラスメイトを驚かせていた。








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