愛
□840円の手のひら
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ついに俺ゾンビ化始まったみたい。耳からキンキン音がする…誰だよ俺の耳の中でベルリラ叩いてるやつ。あぁ、赤也か。ずっと雑音が鳴りっぱなし、いっそこのまま耳聞こえなくなっちゃうのかも。そしたら仁王の声聞けないじゃん
「もしもし丸井先輩!どうしたんですか?」
「うっさい、成田空港で吹っ飛ばされてきな。じゃあね」
「は?…って切れてるし」
はい、さようなら。俺は海藻のために電話料金払うような男じゃないんで。電話かけたの俺だけど。踏切の前までやっとのことでたどり着く。まだ聞こえるこの音を早く消したい。仁王の声を聞くまで音を無くしたくないよ助けてー…
雑音が途絶えたと思ったら仁王君が目の前に耳あてつけて立ってた。全身暖かそうでさあ、マフラーしてさ
俺が白い息かけようとしたら言ったんだ
「ブン太には俺の手で十分じゃ」
「あ、ベルリラが止んだ。それなんて魔法?」
「冬に耳出してると痛くなるって前に言った」
「随分長い魔法だね」
仁王のでかい手が俺の耳を塞いで聞こえない。なんにも聞こえないよ、聞こえるのは微かに響いたベルリラの音だった。
※ベルリラ←鼓笛隊の小さな鉄琴みたいなやつ