流れの中で

□流れの中で 壱の一
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時は幕末、
武士の道を極める者達があった時代。
そんな時代で静かにたたずむ道場が一軒。


その中からは威勢の良い男達の掛け声が、道場内では今まさに剣の試合の真っ最中だった。

「ヤアァッ」
二人のうち少しばかり背の低い方が先手をとり相手の面に目掛け、振り下げる、しかしそれを背の高い方は軽く外側へと力をいなし、そのまま返しに面を一本。
パァンッ


その技は見事決まり、試合は終わった。

「はっ…、はっ…ありがとうございました」

「ありがとうございました」

試合が終わり防具を着けた二人の人物がお互いに礼をして防具に手をかける。

「はっ、やっぱり、強いや、浦原さんはぁ〜」

ふぅっと息を吐きながら、面を外すと、蜜柑色の髪の少年が現れた、彼の名前は浦原一護、この道場の息子である。
その少年こと一護は少し悔しそうに眉間に皺を寄せた。

「そりゃぁ、私は仮にも貴方の師匠であり先生なんですから、そう簡単に負ける訳にはいきませんからね」
それに浦原と呼ばれた男はにこやかに言うと、一護はむぅーっと悔しそうに浦原を睨みつけた。

「まぁ、しかし貴方もなかなか強くなってきている見たいですし…」

その言葉に一護はえっと驚く。
「ほっ…本当…?」

必死に隠してはいるが褒められた事が嬉しかったのか、一護は頬を少しばかり緩めた、それを見ていた浦原は、くすくすと笑い、つんっと、一護の額をつつき、
「まぁ、その真っ正面から突っ込む所は昔から変わりませんがね〜」
っと笑った。

「〜〜っっ!!」
それに一護は再び、むぅっとむくれてしまった。

「どうせ俺は無鉄砲者ですよぉ〜」
その様子に浦原はおやおやっ拗ねてしまいましたか、とまたくすくすと笑った。

この男は、浦原 喜助、この浦原道場の当主であり、一護の義父である。
だが…、

「そうそう、一護さん」

「ん?」
ふと防具の片付けを済ませていると一護は後ろから浦原に呼ばれ、振り向いた、その瞬間。

ちゅっ

驚く程近くに浦原の顔があり、一護の唇はいとも簡単に奪われていた。
「前から私の事は、“浦原さん”ではなくて“喜助さん”って呼んで下さいって言ってるでしょ?」

めっ!と鼻の先をちょんっとつつくと一護はそれまで放心状態からぬけ、わなわなと肩を震わせた、
そして

「なっ、何しやがる!このセクハラオヤジィーッッ!!」

っと浦原の顎めがけ、アッパーを食らわし、ドタドタと道場を後にした。
その後直ぐに起き上がった浦原の

「一護さぁん、親子じゃセクハラにならないんですよ〜!」

っという声は既にそこには居ない一護の耳には届くはずもなく…。

浦原は一護が殴った顎を擦りながら、先程の真っ赤な顔をして去った一護を思い出し、一人またくすくすと笑った。
「…可愛いですねぇ〜、本当…」

浦原 喜助 、彼にとっての一護という存在はどうやら息子とは別の者かもしれない…。

まぁ、今は深く考えないでおこう…。


時は幕末、
武士の道を極める者達があった時代。
そんな時代で静かにたたずむ道場が一軒。


道場の名は浦原道場。
これはそこで暮らす男たちのほんの日常である―。




壱の一 完

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