流れの中で

□流れの中で 壱の三
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陽が一番高く上がった頃、一護が門の近くで素振りをしていると、いくつかの小さな足音が浦原道場にやって来た。


「若先生ぇ〜!」

一護は幼い声のする方へ顔をあげるとニッと笑い、

「おぅ、来たか」
道場の門を潜り、こちらに向かってくる子供達を明るく迎え入れた。

「今日も剣の稽古してくれよ!」

なぁなぁ!ときらきらとした瞳で縋りついてくる子供達を分かった分かったと宥め、じゃぁ、竹刀持ってくるから待ってろと、戯れついて来る子供達と共に、敷地の奥へと歩いていった。
彼らは近くに住む農民の子供達で、親の目を盗んでこうやって一護の元へ来ては、剣術を習っているのである。

そしてそれは今日も陽が暮れかける時まで続いた。


「若先生!さようなら〜!」

「今日はありがとうございましたぁ!」

「またね〜!」


「ぉうっ!じゃぁな!」


本日の稽古も終わり、笑顔で帰って行く子供達を手を振って見送り、道場に戻った。

「よぉ!今日もお疲れ若先生っ!」

「恋次」

母屋に戻ると、縁側の所で腰掛けた恋次が一護を迎えた。
一護は恋次の若先生発言にムッと口をへの字にして視線をそらす。

「その呼び方やめろよ」

「なんでよ、餓鬼共は呼んでんじゃん?」

あいつらは良いのか?と怪訝そうに眉を寄せる恋次の横に一護もドカリと座る。

「あいつらにだってそんな呼び方すんなって言ってるさ、でも止めねぇんだよ」

はぁっと息を吐くと顔を半分手で覆い隠す、その頬は少し赤みを帯びており、照れている事が見て分かった。
それに恋次はにまっと笑みを浮かべた。

「しっかしお前も良く見るよな〜、金にもならねぇのによ〜?」

恋次が言うと一護は一瞬きょとんとしてから顔から手を放し、そのまま両手を膝の前で組み、軽く下に視線を移す。

「…だってよぉ…」

ふと雰囲気が変わった一護に恋次も視線をやる。

「やりてぇって…言ったからよ…」
「あっ?」

「あいつら、初めて会った時、俺が竹刀持ってるの見てよ、
『今は金は無いけど、大人になったら、絶対払うから俺達に剣術を教えてくれ』
って、血相かえて頭下げて来てよ」

それに一護はその時の事を思い出したのはケラケラと笑った。

「あいつらの家、農家だから、ほとんど家の手伝いで遊びにだって出れないだろうに、毎週この日だけには顔出すんだぜ?嬉しそうに、…なんかそれ見てたらさ、こんなに剣術をやりてぇって言ってる奴が出来ねぇなんてあんまりだって思ってよ」

だから、いいんだよ、金なんてっと言うと一護は穏やかに笑った。

「……ッ」

その笑顔に恋次はどきりっとなり、慌てて視線をずらした。
それに気付かず一護は続ける、

「まぁ、教えるったて週一で、しかも指導者が俺なんかだとたいしたこと教えてやれねぇんだけどよ」

ははっと笑う一護に恋次は口を開いた。

「じゃぁよ、俺も一緒に見てやるよ、来週」

「えっ」

それに驚き、一護はぱちくりと瞬きをする。
「お前が若先生なら俺は大先生だからな!もっといろいろ教えてやれるだろ?」

「恋次…」

その時、

「じゃぁ、俺は大大先生だな〜!」

ガバッ


「ぅおっ!?なっしゅっ修兵!?」

突然の言葉と共にのし掛かって来た人物に驚き振り向くと修兵が二ッと笑っていた。
一体いつから居たんだこの男は…。
っと気配も感じなかった事に恋次は軽く自分に腹が立った。

「てめぇっいつから…!…いやっ、それよりなんでお前が俺より大が一つ多く付くんだよ!?」


「そんなん、俺のが年上だからに決まってるだろ?」

「たった一つしか変わんねぇだろが!?」


「細かいこった気にすんなよ!恋次、ハゲるぞ?」


「ハッ…!?」


修兵の発言にショックを受けた恋次を無視し、修兵はくるりと一護の方へ顔を向け、

「俺も来週一緒に餓鬼共に教えてやるよ!」

「修兵…」

なっ?と笑い頭を撫でる修兵に一護はうん、っと頷き、嬉しそうに微笑んだ、
しかし、修兵のその発言に恋次はぐいっと体を押しやり

「お前はくんな!」

「あーッ!うるせぇなぁ」

「ちょっ、おい止めろよ二人共」


その後ぎゃぁぎゃぁ、言い争い出した二人に一護のゲンコツが入ったのは言うまでも無く…。



その一週間後、三人仲良く子供達に剣術を教えている姿があったそうだ。




壱の三 完

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