『影踏み』さんの小説
□好きだから
1ページ/1ページ
あかねと喧嘩した。
どうしてオレたちは、いつもこうなんだ…。
他愛の無いことですぐ突っかかり合う。
どちらからともなく喧嘩が始まる。
怒らせたいワケじゃないのに…。
うまくいかない。
いつものように、あかねと口喧嘩になり、
思いっきり吹っ飛ばされたオレは、
結構、遠くまで来てしまっていた。
ご丁寧に水をぶっ掛けてから吹っ飛ばしてくれたおかげで、
普段よりも数段低い景色を眺める羽目になった。
「ったく、乱暴な女だぜ…。」
悪態を呟いても、何だか虚しい。
何だか、すぐに天道家に向かう気になれないオレは、
すぐ近くに架かっていた橋の手すりに腰掛けた。
そこから見える景色は、
宝石を散りばめたようにキラキラと輝いていて、
男のオレから見てもキレイだった━今は、女だが。
「…あかねにも、見せてやりてぇな…。」
ボソッと口に出していた事に気づき、
独りで真っ赤になってしまった。
そもそも、オレたちの関係って、
いったい何なのだろう…。
友達━って感じでもないし、
家族━っていうには距離を感じる。
だからといって、
他人━って程寂しい間柄でもないし。
恋人…?
なワケがない。
…あかねは、オレの事、どう思ってるんだろう…
最初に会った時は、あからさまに嫌われてたけど、
段々打ち解けて、今じゃ結構イイ感じだと思ってたんだが…。
そう思ってるのは、オレだけなんだろうか…?
出会った頃のあかねは、
東風先生のことが好きで━。
東風先生が、かすみさんのこと好きなの知ってて、
それでも好きで…
でも、オレが現れて、無理やり許婚にされて…
…………
あいつ、”関係ないよ、もう。”とか言ってたけど、
本当はまだ━━?!
脳裏に、昔見た光景が蘇る。
接骨院で、先生の胸で泣きじゃくるあかねの姿…
思い出したくないっ━!!
思いっきり頭を左右に振り、
映像を追い出す。
「…はぁ…。なにやってんだ、オレ…。」
ガックリと肩を落とし、ため息をつく。
喧嘩なんてしてる場合じゃねぇ〜ぜ…。
あかねにとって、オレなんて、
本気で親が決めたダケの、
ただの許婚なのかも知れないじゃねぇ〜か。
シャンプーやうっちゃんに対するヤキモチだって、
オレが勝手にそう思ってるだけで、本当は、
将来ご近所で、
”天道さんところのご主人、
女癖がかなり悪いみたいよぉ〜!やぁね!”
なんて噂されるのが嫌なダケとか…?!
オレのことが好きとかじゃなくて、
世間体だったり………?!
…………
…あかねの人生において、
…オレって邪魔な存在なのかなぁ…
思えば、オレと関わってからのあかねの生活って、
トラブルに巻き込まれてばっかりだよな…。
きっと。
オレがいなくなれば、
穏やかな人生がおくれるんじゃねぇか…?
あかねのためになるなら━━。
でも、待てよ。
オレ自身はどうなんだよ?
あかねのいない人生。
また親父と2人きりの修行の人生。
━━嫌だっ!!!
修行の人生はいいとして、
今更あかねがいない人生なんて…!!
考えらんねぇ!!
今のオレが、あかねにとって、
たとえ邪魔だろうがなんだろうが、
オレにはあかねが必要なんだっ!!
これから、あかねに必要な存在になればいいんじゃねぇか!!
待ってろよ、あかね!!
オマエにとって、なくてはならない存在になってやるぜ!!
オレは、さっきまでのヘコミが嘘のように立ち直り、
天道家へと帰路を急いだ。
今度この夜景を見る時は、
絶対にあかねと一緒だと、
心に誓いながら━━。
━fin