頂き物

□最期の願い
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2009-02-07 17:47
[ 最期の願い (緑様へ 相互記念)]
「それじゃあ、わしは行くぜよ」
「あぁ」
それだけ言うと、坂本は振り返らずに去っていった。
「………」




最期の願い




桂は軽く溜息をつく。
「そうか………やはり行ってしまったか」
仕方の無いことだ、と分かってはいる。が、裏切りだと感じてしまう自分が何処かにいた。
「ちっ」
高杉は舌打ちだけすると部屋から出ていってしまった。
「やっぱり俺だけで見送ってよかった。あいつ絶対辰馬に切り掛かってたぜ?」
高杉が去っていった方向を見て、一人ごちる。
「……そうかもな」
もう一度溜息をつき、桂も立ち上がって部屋から出ていった。
「…………」
一人残され、床に仰向けになって寝転がる。
「仕方ねーんだって」
あいつ、相当苦しんでいたんだよ。
「本当に、悩んでたんだぜ?」
誰も聞くはずが無い。しかし、そう言っておくことで少し気分が落ち着いた。思っていたより自分もショックを受けていたようだ。
「…………辰馬からの伝言、伝えるの忘れた」
そのうち、そのうち伝えよう。これからは支えが一本無くなって、軍は不安定になっていくだろう。落ち着いたときが良いかもしれない。

†††

「なぁ、聞いたか?坂本さんが軍から抜けたぞ」
「なっ…………」
「俺見た。本当だぞ?」
「逃げたのか?こんな時期に」
「腰抜けが………」
あっという間に坂本が抜けたという噂は広まった。それこそ、枯れ草に火を付けたような。
「ヅラ」
「ヅラじゃ無い桂だ」
「噂、どうする」
無表情に高杉は桂に問う。
「…………どうしようも無いだろう。坂本が去ったのは事実だ」
それに、と桂は続ける。
「そろそろ、戦争も終わる。それ所では無くなってくるぞ」
天人が幕府まで入り込んだ。侍にとどめがさされるのも時間の問題だ。
「ついに終わりか」
「そうだな」
「…………」
「…………」
張り詰めた空気。気まずさのようなものも混ざっている。
「いつになる」
「明日か明後日か………一週間後になるだろう」
高杉は眉をひそめた。
「分かってねぇだろう。時間枠が広すぎだ」
「誰にも分からないだろう、こればかりは」
「仕方ねぇな」
ふん、と鼻を鳴らして立ち上がる。そのまま廊下に出て自室に向かう。刀の手入れでもしておこう。どうせ最後になるのだ。
「………?」
ふと、部下が数人集まって何か話をしているのが目に入った。そっと近付いて耳をそばだてる。

「あんな奴、武士の風上にも置けない」
「全くだ………何考えているんだ」
別に、坂本とは特別な絆は無い。そう思っていたが
「おい」
思わず声をかけてしまったのは何故だろう。
「!!」
「!!」
「た……高杉さん!?」
「別に、あいつをどうこう言うのはかまわねぇがな」
声を低くして続ける。
「だがな………あいつの思想までは、馬鹿にするなよ」
それだけ告げると、呆然としている部下をその場に残し踵を返した。

†††

その様子を、部屋からこっそりと桂は見ていた。
「意外だな」
「俺も意外」
隣の部屋からは銀時が同じように部屋から顔を出していた。目があって、思わず苦笑する。考えていることは同じのようだ。
「だって高杉の声がしたからさ、また何か問題でも起こすかと思って」
確かに、高杉ならやりそうだ。
「後で褒めてやるか」
「あいつは子供かよ………そーいえばさ、酒が結構残ってる。どうする?」
そんなに残っているのだろうか?
「わりと少なかったぞ?」
「マジで?」
それだけ言うと銀時は再び引っ込んでしまった。寝るつもりなのだろう。
「辰馬の馬鹿やろ〜〜〜………」
違ったようだ。
「坂本………お前か?酒を飲んでいったのは」

†††

或る、船の上。一人の男が欄干から外を見ていた。
「はぁ………」
「…………」
「はぁ………」
「は
「うるさいぞ頭」
いつの間にか隣に控えていた陸奥に頭を殴られた。見た目によらず力は強い。涙目になって殴られたヶ所を摩る。
「いたたた………」
「情けない顔しちょるからじゃ………そんなに気になるか」
「気にするな、という方が無理じゃよ」
苦笑いしながら後ろを向く。果たして、金時は伝言を伝えてくれただろうか。
「そろそろ出発じゃ」
「了解じゃ」
二つの人影は、船の中に消えていった。少し残った気配は、風に吹かれて消えた。

†††

憎らしいほど、空は晴れている。そんな空を見上げる男が一人。
「ついにこの時が来たな」
誰に言うわけでも無く呟いた。なだらかな丘の麓には、千を超える天人の軍が犇めいていた。ちらほらと人間の姿も見える。幕府が侍を見捨てた、というのは本当のことのようだ。
「こちらの数は約五十人………どうする気だ?」
銀時が桂の横に走ってくる。同じように天人の軍を見て顔をしかめる。
「お前が穴を埋めろ」
「無茶言うなって……」
桂はそれだけ言うと軍の方
に歩いて行った。
「はぁ………」
溜息をついて、銀時も後を追う。
「遅せぇ」
「何?高杉いつの間にいたの?」
「今さっきだ」
見た目はあまり変わっていないが、相当苛立っている事が分かった。伊達に今まで過ごしてきたわけでは無い。
「そろそろ行くぞ」
桂が最後まで残った部下に声をかける。神妙な顔で皆が集まって来た。先頭には、俺達三人が立つ。
「ヅラ、高杉」
「ヅラじゃ無い桂だ」
「んだよ」
伝言を伝えるなら今だろう。
「辰馬がさ、『生きて、またいつか会おう』だって」
桂と高杉は一瞬驚いた顔をして、それから笑い出した。
「あいつめ………無駄にかっこつけおって」
「この状況を分かれよ」
「いや、それは無理でしょ」
ざぁ、と音を立てて風が吹き渡る。その風にのって、天人の楽器の音が聞こえてきた。
「いよいよだな」
その場にいた全員が顔を引き締め、刀を抜いた。
「皆、これで最後だ。例え少しでも、天人を懲らしめてやろう」
「おぉ!!」
覇気がある声が帰ってくる。これで最後になるとは、本当に残念だ。
「行くぞ!!」
銀時が鋭く叫び、一斉に天人へ向けて走り出した。
それが、約二十年続いた攘夷戦争の最後の戦いとなった。



数年後、四人は生きて出会うことになるが、それはまた別の話。

†††

「起きろ!!三人とも!!」
「うるせーよヅラ」
「ヅラじゃ無い桂だ!!さっさと起きないとまた遅刻するぞ!!」
「んだよ………別にいいじゃねぇか」
「そうじゃそうじゃ……あ〜〜頭が大変なことになっちょる」
「それはいつもだ!!この寮から学校までどれくらいかかると思っている!?」
「10分」
「高杉………」
「つーかさ、俺変な夢見たんだって」
「わしもみたきに」
「俺も見たぜ」
「確かに俺も見たが………内容は忘れたがな」
「なんか戦ってる夢だった」
「俺もそんな感じだ」
「わしもそうじゃ」
「あぁ………そうだったな」
「…………」
「…………」
「…………」
「………ん?もうこげな時間じゃ!!」
「やっべ!」
「俺ぁ、もうサボる」
「そうはいくか!!」
「引っ張んじゃねぇ!!」
「もう遅刻じゃぁ!!」
「チャリ置場まで走れ!!」



これも、また別の話である。










やってました\(^o^)/的な後書き
とにかくすみません!!
相互記念とかいっておきながら大変なものが出来てしまいまし
た………
緑様、これでいいですか!?大丈夫ですか!?
返品等はいつでも受け付けます!!

 

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