短編
□サイレン鳴らしてさあ急げ!
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私は彼を此処に呼び出すと隠し持っていた銃を抜いた。此処からは全然見えないがあちこちに私の敵が隠れ、監視していれる。私が彼を殺すのを、待っている。
(もしお前が真選組の山崎退、あいつを殺すなら俺達はお前を生かしてやる。だがお前があいつを殺ることが出来なければお前を殺す。いいな?チャンスは一度だ。)
あの時は心臓が口から飛び出すかと思う位驚き焦った。ついに彼との関係がバレてしまった。
敵の私とスパイの彼。
嗚呼、なんて救いようがないのだろう。
殺すか殺されるかなんて。どっちも嫌だ。…まあ裏切り者なのにすぐ殺されなかった私はラッキーなのかな?うんまぁ…そうだラッキーなんだ。うん。
銃の引き金に力を込めた。が、指が思うように動かない。退、退、退。
「名無しさんが、好きなんだ。」
涙が零れそうになる。私もだよ。貴方だけ口にするなんて狡い。私も退が好きなんだよ。ふるふると自分でも分かる位震えていた。
私はようやく渇いている喉から言葉を発した。
自分は貴方と同じ優秀な密偵なこと(そりゃもうあたしは優秀です)、騙し?殺し?そんなの得意中の得意なこと(組織で一目置かれてました)。
なのに、なのに、自分は変わってしまったこと。現にほら、貴方一人を殺すのにこんなにも…躊躇ってしまう。
死なないで、死なないで!貴方は死んでいい人間じゃない。
そう思えば思う程ピストルを握る力が強まる。あたしが銃を向けるのを止めたら貴方はあたしの仲間に殺される。
…そしてあたしも。
「一緒について来て欲しい。」
彼の言葉はなんて優しくて魅惑的なんだろ。しかし私には二つの選択肢しかないんだ。1番の最善な方法、貴方を救う方法。
やっぱり自分はこんな所に彼を呼び出して
彼を殺せる訳はナイって
知っていたみたい。
走りだす。
好きです、ずっと。今迄ありがとう。
幸せだったな。
黙って言い訳を聞く君に天使は微笑むだろうと信じてみる
意識が消える頃、彼は泣いていた。
(彼の涙が見れた。…ああ幸せ)