短編 

□傍観者は語る
1ページ/2ページ










「土方さんは努力家だから。」



さも意味が分からないのか派手な女物の着物を崩して着ている男は珍しく怪訝な顔付きをした。
暗い夜道、窓から差し込む月明かりだけが唯一この部屋を照らす。
スパーっと吐き出した白いキセルの煙りに少し噎せてしまう。

「それにね、負けず嫌い。」

彼は興味もなさそうに彼女を見て立ち上がる。しかし彼女はそんなことを気にもせず無表情で続けてみせた。

「無愛想で分かりにくいし鬼の副長なんて言われてるけどソレは違うんだ。」

目の前に来た彼の左目はやはり包帯に包まれ、何故だかその白い包帯に切なさを感じてしまう。

彼は手を延ばし彼女の頬を触る。
その手の甲に彼女の手の平を当てて包み込んだ。

「本当は優しくて誰よりも相手を思う純粋な人。」

彼は彼女の体を引き寄せ首筋に深く口付けを落としていく。
全身に広がるこの感覚に痺れを覚え、自分が愛してる相手とは違う乱暴さ、欲望さを感じた。
彼の身勝手な行為に反発をすることは勿論出来ずにただされるがままに身を委ねていく。

「だからね、絶対に来るんだよ。…此処に。」



彼女が言い終わった瞬間扉の崩れる激しい爆音が聞こえ、振り返ると煙りの中に汗を流して息を漏らす黒髪の男が刀を手に立っていた。

ほらね、と呟くと黒髪の男と目が合い微笑むが、彼の目はただでさえ開いていた瞳孔がさらに開かれているように感じる。(ひぇ!怖っ)

刀を力強く握りしめ勢いよく彼女を掴む彼に走り込む。キインという鋭い刃のぶつかる鳥肌が立つような金属音と重い殺気に寒気がした。


「オイ、そいつが誰だか知ってんのか?」

「……クク。」



取り敢えず縛られた足の縄を解いて下さい。と言い出したかったが空気を察して止めた。男がくわえていたキセルの煙が嫌ではなかったのは、助けに来たあの人の煙草の煙に慣れていたせいだろう。


激しい刀のぶつかり合いの様子をじっと冷静に見つめていると、土方は攻めの姿勢で怒りを晴らすかのように切り付ける。しかし対に包帯男はというと受け身の態勢で流すように刀をかわす。

(馬鹿にしてるのか?)

ムカついて男に声を出そうとすると生暖かい液体が瞳についた。
嫌な予感がし恐る恐る目を開き、瞳についたソレを手で触り見ると真っ赤な液体が、その液体の主を辿ると彼の頬から飛び散ったものだった。瞬間彼女の瞳は変わり激しい憎悪に変わり、低く鋭く声をあげた。



「高、杉……っ」










もう奴は姿を消したが追うことはなかった。ただ彼の頬を触りごめんね、と呟くが彼は彼女を抱きしめた。

「わりィ…俺がいながら、こんな…。」

首筋についた赤い印を発見したのか彼の怒りは静かに、そして更に増し、抱きしめる腕の力は強かった。



「…大丈夫、ありがとう」



彼の頬をまた優しく触ると今度は彼が彼女の頬を触りそのまま顔を近付けた。
唇の温かい、心地が良い幸せな感覚に酔いしれて瞳を閉ざす。(あ、三回目…)











傍観者は語る













(そんなこともあったよね、高杉。)

(ア?聞いてなかった。)

(もー!…なんでもないよ)




幸せだった青春期。コイツと会うまでの純粋無垢な自分。時代は変わり、志も変わり、淡い思い出に浸る昼下がりの午後。
理不尽な世の中と今は憎き敵へと成り果てた優しい彼との記憶に蓋を閉じる。





愛って最低。








(ゴメンね皆、ゴメンね…十四郎。)











キセルの煙が涙をそそる。












≫祝壱万打越フリー小説
この話はとても後書きを見てほしかったりします。←

次へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ