短編
□僕等の幼少時代
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(何その木。)
(素振りの練習でィ)
(いやいやそういう意味じゃなくて。)
(文句あんのかィ?)
(いやいや文句っていうかその木…)
(でかいだろィ。お前もやるか?)
(いやいやお前もってか…)
それ木の皮じゃん!!!!
チッバレたか…という自分と同い年位の少年に胡散臭そうな目で見てやるとソイツは「何見てるんでさァ」とあからさまに嫌そうな顔をする。
(馬鹿、お前に嫌そうな顔をされる筋合いないっちゅーの!)
そう口に出すとあのドSは私を虐めてくるので下手に言い返せないのがムカつくのだ。
これでも彼が住む道場の隣の家で何年か付き合いがある私は彼の性格を結構理解していた。
先ずは彼は超のつくシスコンで姉が大好きだ。
そして髪を縛っている「土方」という青年が大嫌いらしい。
そして近藤さん、という人を尊敬していて………超がつくドSということ。腹の中は真っ黒だ。
「ね、またサボり?」
木の下で寝転びながらいつものように日影で涼む彼を見つけ、彼女もいつものように隣へ座ると普段は嫌がるアイツが今日はやけに静かなのに気が付いた。
「どうしたの?」
不思議に思い尋ねたがやはり彼は黙ったままで少しムッと口を膨らませた。
「別にいーけどねっ」
強がり九割でそう言い寝転ぶとふわりと香る植物の甘い匂い。
不思議と落ち着くその日影にうとうととし始めた頃、ようやく隣に寝転ぶ彼が口を開いた。
「江戸に行く。」
寝始めていた虚ろな意識が確実に戻った。
ぱっちりと冴えた瞳に動揺の色が見える。
どうしても彼の方へ振り向くことが出来ずにようやく出た言葉は「なんで?」という疑問詞。
違う、そんなことを言いたいんじゃない。
そう心で叫んだところで伝わるはずもなく、そんなことは自分だって分かっていたがソレ以上は無理だった。
「…決まったことだから。」
泣きたい衝動に駆られてもう走りだしたかった。そして気付いてしまった幼い恋心。もう彼には会えないのだろう、と小さな頭でも悟ってしまった。
そう思うとやはり一応抑えていた涙も一筋、我慢出来ずに流れてしまった。
一筋流れ出すと止まらなくまた一筋、また一筋流れ出して歯止めが効かない。
ついには声を出して泣いてしまった。すると彼は頭を撫でてくれた。優しい手の平で。
ああコイツはこんな優しいこともあるんだ、いつもこんな優しければいいのに。
そう口にはしないのはやはりいつものことで笑ってしまいそうになる。
「頑張ってね」
精一杯繕ってみる。
彼はコクンと頷いて小さな私達は小さいなりにも暖かい青春に華を開いていたらしい。
総悟だけ連れていかなければ良いのに、なんて酷いことを考えた。
(自分はまだまだ子供だな。)
僕等の幼少時代
久しぶりに江戸へ出た。時は流れ時代も変わり、随分住みやすい世の中になったと思う。自分は相変わらず京に身を寄せている。
大きくなるにつれ背だって伸びたし学問もそこそこ学んだ。それに色々なこともあり、バイトも始めたし彼氏も出来た。まあまあ青春中。
それでもふと思い出すのは小さな頃の記憶。
(アイツ、は。)
こんな涼しい木の下でサボりをしているだろうな、と大きな木を見ると…
彼はいた。
「え、いや間違い?いやいやいやアレ?…えっでも………マジで?」
恐る恐る近付くと不思議なアイマスク。
もうコイツしか有り得ない、と私の感は告げる。隣に座ると溜息を着いて彼は「誰でさァ。」と怠そうに呟く。
「そうご、」
そう言った瞬間彼は素早く起き上がりアイマスクを外す。
そして目を見開いた。
「…………お前っ」
久しぶり、と言い満面の笑顔で話し掛けると「あー…わり。誰だったかィ?」と言うのでアハハハハと殴って見せた。
うん、どうやら私の青春はまだまだこれからのようだ。
(ねぇ、また会えたね。)
≫キリ番リクエスト作品(高島彰様)