短編
□初めてだったのにー…
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全身が鉛を背負っているかのように重く、声が 出ない。ヒリヒリと熱い痛みを燈す喉を押さえ、閉じた目を開く。
ピピピ、という音を鳴らす体温計を手に取り落胆の表情を浮かべた。
「37度8分…」
完璧風邪だ。
これがある種の処方箋。
「よー元気か?見舞いに来てやったぜィ」
「ん、やっほ…。てかどうしてアンタがさも当たり前のようにあたしの部屋にいんの」
「お前の母さんがどっか出かけてくっから勝手に入ってていいってよ」
「お母さーん」
そう言ってる間に総悟はちゃっかりバスケットに入った果物を頬張っている。アレソレお見舞い品じゃないっけ。
「暇だから俺が食べてやってんでさァ」
「何ソレ見せびらかし?見せびらかしなの?」
全く、と呆れて布団に戻る。熱が悪化したらどうする気だ。
コホッと咳をした。するとそれに反応し心なしか彼の肩が揺れた気がした。
「………どうしたの?」
「……………。」
果物を食べていた手を止めてこちらを振り返る。じっと見つめて来るので困ってしまう。私は何か悪いことでもしたのだろうか?
「あ、あの。あまり私と一緒にいたら風邪移しちゃうよ?」
目線に耐え切れずにそう言うと彼は怪訝な顔付きをする(と言っても大分無表情だけど)
「移せよ」
瞬間、彼は彼女の肩をグイっと掴み自分に引き寄せると、無理矢理自分の唇を押し付けた。
思考回路はショート寸前(セーラームーンか。)
「……」
暫く動けずゆっくりと離された唇に目を落とす。ポカーンと放心状態で驚きを隠せない。
「移ったらテメェのせいでィ」
「え、これ私のせいなの?」
あーあ、初めてだったのに。(このタイミングは狡い。)
次の日、朝目を覚ますと熱は見事下がっていて、込み上げる不安のもと枕元に転がっていた携帯を開いた。送信先は彼。
数秒して返ってきたメールに落胆してしまう。ああ、罪悪感がひしひし。
「本当にうつっちゃったじゃん。…馬鹿。」
病み上がりの体を起こしてシャワーを浴びる。着替えをしたら家を出てアイツの家に行こう。私好みのお見舞い品を持って。
(咳なんかすっから嫌な予感したんでさァ)
(心配性なんだよ総悟は。)
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咳はミツバ氏を
思い出すから苦手な沖田君。
リクエスト(かんな様)