短編 

□暴走列車の最終駅
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銀時の時々困ったような、切なげで、なんとも言えないような顔が苦手で、これ以上は踏み込むことが出来なかった。

一度関わってしまえば彼は酷く優しくて、全てを守ろうとする。
自分が抱えてるものを何がなんでも守り抜くんだっていう意思が伝わり過ぎて、いつか抱えきれなくなって自分自身を犠牲にしてしまうのではないかとボンヤリ考える。

だって現に、貴方は私をこうやって助けてしまうんだもの。
頭から流れる血液に息を飲む。
落ち着け、と息を整えながら黙って包帯を巻いてあげてから、布団の横で様子を伺う。
いつもの薄い青色の仁平を着ながら平然とした顔を浮かべる彼は、白い布団の上で堂々と横になっていた。

ズズ、と鼻を啜る。




「いつか、死んじゃうよ」



涙を溜めながら、しかし彼の前では流すまいと歯を食いしばる。

そう、彼はいつか自分自身を犠牲にしてしまうのではないか。
そうやってフッと世界から姿を消してしまうのではないかと最悪な出来事が頭を過ぎる。


私が少しきつめな口調で言い放つと彼は手首をしっしっと振り回す。



「大丈夫だっつってんだろ…ほら、俺はもういいからさっさと帰れ」




ほら、そしてやっぱりそうやって深く踏み込むのを遮るじゃないか。
あの表情、苦手だ。

これ以上は誰も踏み入れないようとに壁をつくる。そんな姿に誤解する人が沢山いるが、私は誤解している訳ではない。ただもっと彼に近付きたいと思うから。だから悔しくなるし、悲しくだってなる。大きすぎる壁を目の前に、私は一人取り残されたような小さな孤独感に打ちひしがれて堪まらず涙が下へと落ちる。
畳に染みた。





「知ってるんだから、貴方の拒絶は優しさだって。」




ついに言ってやった。
ずっと思ってたこと。

ほら、彼は黙る。




「お前は心配し過ぎなんだよ」

「だって護られてるだけじゃ嫌だから」

「女は黙って護られてなさい。時には護られることも必要なんだぜー。」

「銀時の傷つく姿を見るのが堪えられない」

「いつも激しくアタックしながらツッコむ癖してよく言うわ」

「ギャグとシリアスの見極め位出来ますから」

「あたぼーよ。毎回シリアスなら堪ったもんじゃねーや。ほら、帰った帰った。俺ァジャンプ読みてーの。」

「………」





馬鹿、阿呆、マヌケ、天パ。

「天パ関係無くね!?」





そうやって、一人で抱え込んで、一人で背負い込んで、他人を護るのが当たり前で、見ていて苦しい位に眩しい人間だ。

そんな奴を私は…






「分かったよ、帰る。」


私は重い体を上げて着物の裾を払う。
何処か覚束ない足取りでノロノロと戸口に向かって手をかけた。
その時不意に名前を呼ばれたもんだから振り返って止まる。
彼はボーっとした様子で天井を眺めながら口を動かした。






「お前さ、何考えてんだか知らねーけど」





彼は俯いた私をチラリと盗み見る。包帯で巻かれた頭からじわりと血液が滲み出て染まった。





「俺ァ、
大事なモン全てを護りてーだけなの。」




ブワッてなった。涙が。
私も大事だって?何感動するようなこと言ってくれるんだ。
慰めじゃないのが彼の瞳を見てわかる。
そうなんだよ、貴方はそういう人なんだよね。

分かってるけども、もっと言ってやりたかった。
大事だからってカッコつけるな!とか。それでも傷付いて欲しくない!とか。
しかし自分を支配する何か温かい感情がソレを口にするのを阻んで無性に愛おしさを増幅させる。


戸口にかけた手を引っ込めて方向転換。








「やっぱり…ちょっとだけ、もうちょっとだけ一緒にいても、いい?」






駆け寄って彼の隣にちょこんと座った。
畳がギシリと頷く。

彼は体を逆に背けて布団を深く被り直した。









「………しゃーねーな」



そんな彼の呟き声を遮るように私は手を伸ばした。













暴走列車の最終駅









そんな貴方の唇に接吻を落としてみる。
一瞬だけ、軽くて薄いキス。
それからまたもや泣けてきた私にグシャグシャと頭を撫でる彼は心が大きい人だ。


私の暴走の原因でもあって、終着点でもある彼に今度は上から抱き着いた。
踏み越えてやるんだから。壁を断ち切ってやるんだから。




「ちょ、ぐえ、重…っ、俺病人!病人なんだけど」

「重いとか失礼な人」







――――――
リクエスト銀時

 


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