公安第二課(裏リク)

□kiss me
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「さて。問題です」
秋葉はベランダに続く大きな窓に背中を預けて座り、煙草の煙を吐き出しながら梶原に言った。
夜勤明けの朝。相変わらず生活感のない秋葉の部屋。
「何ですか」
ベージュ色のカーペットの上に座っていた梶原は首を傾げた。
「俺、もう眠いんですけど……」
「俺は眠くない」
無茶な理論で、秋葉は呟いた。
「今日の問題。刑事訴訟法」
「うー……」
これは単なる嫌がらせではないのだが。それは分かっているだが、梶原は苦笑した。要は、刑法や刑事訴訟法がなかなか頭に入りきらない梶原のためと、秋葉が安眠するための一種の儀式のようなものだ。
「第253条は?」
「……時効のとこですかね?……時効は、犯罪行為が終わった時から進行する!!」
「……当たり」
にこやかな梶原とは対照的に、つまらなさそうな表情で秋葉が言う。
「秋葉さん。どっちかって言ったら、刑法のほうがいいんですけど……」
「………んじゃ、刑法第221条」
「……逮捕監禁…ですか?えーと。逮捕監禁によって人を死傷させたものは…傷害の罪と比較して、重い刑により処断する!!」
「この前よりレベル上がったな…つまんねえ」
秋葉は煙草を灰皿に押し付ける。
(少し眠くなってきたかな?)
梶原はそれを見てそう思った。
「煙草、あんまり職場では吸わないですよね?ここでは一日に何本吸うんですか?」
そう問うと、秋葉はうるさそうに片膝を抱え、そこに額をつけた。
(ほんとに猫みたいだなあ)
「2、3本。どうでもいいだろ。じゃ……第148条は?」
梶原はしばらく考える。
「えー……」
答えに詰まった雰囲気を感じて、秋葉は顔を上げた。
「なんでそんなに嬉しそうなんですか」
「嬉しいから」
「それ、目茶苦茶ですってば」
ちょっと待ってくださいよ、と言い置いて、梶原は考え込む。
「答えられたら、何かご褒美くれます?」
ふと思いついてそう言うと、秋葉は顔をしかめた。
「嫌だ。お前、どうせろくな事言わないから」
「でも、今日は全問正解ですよ?刑法148条は、通貨偽造のとこですよね。使用する目的で、通用する貨幣、紙幣または銀行券を偽造し、または変造したものは、無期または3年以上の刑に処する。でしょ?」
「つまんねえ」
秋葉はそう呟いて、また顔を伏せた。それから、思い出したようにまた顔を上げて梶原を見る。
「…何が欲しいんだ?」
「じゃ、キスひとつ」
臆面もなくそう言う梶原に、若干脱力しながらも。
「いいよ」
秋葉はその場所で梶原を手招いた。ほんの数歩の距離。膝立ちで歩いた梶原の胸元に手を伸ばして自分の方へ引き寄せる。
ほんの短い口付け。
「………冷たいんですよ、秋葉さんの唇。ほら、体温も絶対低いですって」
梶原は両手のひらで秋葉の頬に触れた。
「触んな」
秋葉は梶原の茶色の髪をぐしゃぐしゃにかき回す。
そしてもう一度キスをした。
「おやすみなさい、秋葉さん」
「うん…」
しばらくの間、梶原は秋葉を抱きしめていた。
もう少し、秋葉が眠くなるまで。

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