公安第二課(裏リク)

□傷跡
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「お前…マジで馬鹿だろ」
自室の窓際で。最初は梶原から仕掛けられたキス。
一度それに応えておいて、秋葉は体制を入れ替えて梶原を床の上に転がした。
「何でそんなに怖がってるんですか、秋葉さん」
ひどく冷ややかな眼差しで、真上から見下ろされて梶原は直感でそう言った。
圧し掛かられているのに、秋葉からはあまり重みを感じない。
「俺、秋葉さんの事、好きですよ」
彼が何に怯えているのか。梶原にはまだその理由が分からない。
「俺、好きとか嫌いとか。愛してるとか。そういうの嫌いだから」
「どうしてですか?基本じゃないですか。人間関係の」
きょとん、として見上げてくる梶原に舌打ちして、秋葉は苦い表情を見せた。
「そんなの基本じゃねえよ馬鹿。だいたいなんでお前に好かれなきゃならないんだ」
ぺしっと軽く梶原の頬を平手で叩き、秋葉は離れていこうとする。
梶原はその左腕を取って、引き止めた。
着替えるために脱ぎかけだったワイシャツの袖が半分抜けて秋葉の左肩の傷が露わになる。
「………」
銃弾が、左肩から背中に抜けた傷跡。
秋葉の肌に異様な存在感を持って居座っている。
梶原は身体を起こして、秋葉を引き寄せた。
「触るな」
背中の側の傷跡に指先で触れた瞬間、秋葉が拒絶の声を上げた。
「秋葉さん?」
もしかして、傷が痛んだのだろうかと不安になった梶原の手を振りほどき、秋葉はがくがくと震え始める自分の身体を丸めて、それを押さえ込む。
「……見るな。馬鹿」
浅く早くなる呼吸。膝をついて床に沈んだまま、その表情を絶対に見せずに秋葉は言った。
「ってか、何でお前がうちにいるのか分かんねえ。あっち、いけ」
「秋葉さん」
梶原が動く気配が無いことを察して、秋葉はあきらめたように顔を上げた。
「……笑っていいぞ……。あの時を思い出すと、怖いんだ」
咳き込んで、言葉を自嘲気味に吐き捨てる。
梶原は、左肩を押さえている秋葉の右手に、自分の手を重ねた。
「大丈夫です」
まだ震えている身体を抱きしめて。
「もう、誰にも傷つけさせませんから」
「……何だ、それ」
秋葉は笑おうとして、失敗する。
「だから、もう大丈夫です。何も怖くないですよ」
秋葉に正常な呼吸をさせるために、梶原は自分が深くゆっくりと呼吸をして見せた。
「やっぱり馬鹿だろ、お前」
冷たい汗をにじませて、秋葉は目を閉じる。
「馬鹿です。多分」
「………悪いけど…」
秋葉は梶原の背中に手を回して、そう呟いた。
「もう少しこのまま…側にいてくれ」
「……ずっといますよ」

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