公安第二課(裏リク)

□DATE
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それは4月の終わりの非番の日。
ようやく秋葉が嫌いな桜の季節が終わった頃。
梶原は、秋葉を誘ってとある公園にいた。
「ほら、きれいでしょ?この前、張り込みの時に気になってて」
見上げるその先には、紫の藤の花があった。
頭上を覆う大きな藤棚の下は、甘い香りが漂っている。
「秋葉さん、桜は嫌いだから……」
春という季節から目を背け続ける秋葉に、どうしてもこれを見せたかったのだ。
いくつか置かれた木製のベンチのひとつに座り、梶原は秋葉にそう言った。
周りには、子供連れの家族が数組いて、やはり自分たちと同じように藤を眺めていた。
「……桜…今年も見なかったな」
ぽつり、と秋葉は呟く。
忙しい仕事のせいもあり、毎年季節の変わり目を体感しそびれてしまう。
「俺、藤の花好きなんですよね。何か、幸せになりませんか。このにおいとか。春が初夏に移っていく感じがして」
梶原の言葉に、秋葉は微笑して首を傾げた。
「お前、割と古風だよな。生粋の日本人というか。季節が変わっていくのを楽しんでるというか」
「秋葉さんは、あんまり興味なさそうですよね」
「うーん……あんまり考えたくなかった……かな」
春は独り取り残された自分を、痛いほど認識してしまう季節で。
できれば何も感じないようにしておきたかった。
「もったいないですよ?せっかく生きてるんですから」
「そうだな」
梶原の言葉は穏やかで、心地いい。
秋葉は、少しの間目を閉じていた。
「眠いですか?」
「……ちょっとだけ」
頬を撫でる風と、藤のかおりと。
「じゃあ、少し眠ったらいいですよ。俺、一冊読みかけの本持ってきてるから」
この場所なら、もしかしたら秋葉が僅かな時間でも眠れるのではないかと梶原は思っていた。だから、ポケットの中に本を一冊忍ばせてきたのだ。
「肩にもたれてもいいですよ?」
「……嫌だよ」
柔らかく笑んで、秋葉は再び目を閉じた。
嫌だ、と言いながらも、額を梶原の左肩に触れさせて。
こうして時折は自分の側で、秋葉が安らいで眠ってくれる事。
梶原には、それが幸せな事に思えた。

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