機動捜査隊(頂きもの)

□昼、食堂にて
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署の食堂は設備は古くさいが、味は悪くない。
影平はそう思っている。
そして何より…値段が安い。
ここは、家族を養う身には、絶対に、外せないポイントだ。
気楽な独身者どもは、隣の喫茶店に出掛けることもあるようだが、それは自分には過ぎた贅沢というもの。
券売機もないここでは、食堂のおばちゃんに直接注文をする方式だ。
顔馴染みのおばちゃんなら、少しサービスしてくれたりして、凄く得した気分になれるが、どうやら若い連中には不評らしい。
「橋本さん、今日も美人だね〜。きつねうどん頂戴〜」
今日は知ってるおばちゃんがいた。
ラッキーと思いつつ、軽口を叩いて注文をする。
「!…あいよ〜!」
おばちゃんは…少し面食らった顔をして……それから、恥ずかし気に笑った。

ちょっとだけ、ネギの量の多いうどんをトレーに載せ、影平は空いた席を探す。
なるたけ、気を使わない席がいいやね…。
キョロキョロと辺りを見回すと。
よく知った顔があった。
梶原、だ。
運良く彼の隣は空いている。
「よう、同席してもいいか?」
「影平さん、お戻りになってたんですか?」
どうぞ、と言われて、梶原の隣の席に腰を下ろす。
「およ?お前もうどん?」
調味料の中から七味を取りつつ、見るとはなしに梶原の前のトレーを見ると、まだほとんど手のつけられていない肉うどんが乗っていた。
「はい、なんかうどんって気分だったんです。影平さんもですか?」
梶原は箸を止めて影平に笑いかけた。
しかし…影平は気がついた。
豚コマの中に、切れ端のお揚げが入っているのを。
…俺にはネギしかサービスしてくれなかったのに…
七味の瓶の蓋を外すと、影平は徐ろに中身をどかどかと振りかけた。
梶原のどんぶりに、だ。
「うわっ!何するんですか!俺、辛いの苦手なんですよっ?」
知ってるよ、そんなことは。秋葉が前に言ってたもん。
秋葉は、梶原の話をする時、少しだけ、いつもと違う表情をすることを影平は気付いている。
意地っ張りなアイツには、言っちゃいないが。
「勿論、嫌がらせ?」
さて、何に対して、だか。
涙目で目の前のどんぶりを見つめる梶原が可笑しくて、影平は笑い、自分のどんぶりにも七味を少しだけ振りかけた。
「飯食ったら、午後もお仕事だあな」
そして、まだ使ってない箸で、梶原のうどんの上の汁が染みて固まりになった七味を、取り分けて自分の方へ移す。
涙目だった梶原が驚いた顔をしてこちらを見るが、影平は素知らぬ振りで麺を啜った。
「…ありがとうございます」
梶原は笑顔で礼を言い、再び食べ始める。
表情がコロコロと変わる梶原を、太い麺を飲み込みながら影平は観察した。
誰かに似てるんだよなぁ…こういうとこ…。
ふと、思い当たるものが影平の脳裏を過り、慌てて打ち消す様に頭を振った。
…こんなデカイ子供はいらないよ…

ま、午後もひとつ頑張りますか、ね。

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