機動捜査隊(頂きもの)

□みのむし
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梶原が帰宅すると。
ころりと、床の上に蓑虫が転がっていた。
巨大な蓑虫だ。
頭まで蓑―ブランケットに包まっているが、これが部屋の主であるのは間違いない。
機嫌がいいのか悪いのか、その毛布の塊はにょこにょこと小さく動いている。
「なんでそんな格好してるんです?…暖房もいれないで」
ただいまと帰宅の挨拶に続いた梶原の問いに、毛布に埋もれていた顔を覗かせ、秋葉が上目遣いにちらりと見た。
「お帰り。…面倒だったから…」
楽し気な眼差しとは異なる気のない返事に、梶原は思わずため息が漏れるのを堪えきれなかった。
リモコンで空調のスイッチを入れ、持っていた鞄を定位置に置く。
「風邪、ひいちゃいますよ。床は身体冷えるんです」
言いしな、秋葉を毛布ごと抱え上げるとベッドへ連れて行く。
秋葉は布地に阻まれ腕が出ない。
しがみつくことをしない代わり、されるがまま大人しくしていた。
梶原と二人分の重みを受け、スプリングが軋みを上げる音を秋葉は聞いた。
壊れ易い大切な何かを扱うかのように、そっと身体が降ろされる。
「…寒い…」
梶原が離れた感覚に、微かに震えて秋葉が呟いた。
「エアコン入れましたから、すぐ暖かくなりますよ」
判っているのか、いないのか。
梶原の返した言葉に、秋葉は再び柔らかな毛布の中へ頭を潜らせる。
周囲から隔絶されたクリーム色のブランケットの中は柔らかな陽の光が広がり、とても温かく見えた。
だが。
先程までは、確かに温もりを感じていたのに。
今は、何故かひんやりとした冷気を身体は覚える。
「…かじ、わ、ら」
「はい?どうしました、秋葉さん?」
ひっそりと零したはずの囁きは聞き咎められ。
閉ざされていた目の前の空間が開放された。梶原の手が毛布の端を持ち上げていた。
スーツの上着を脱いだ梶原が、仰向けに寝転んでいた秋葉の目に写る。
そこにあるのは、いつもと変わらぬ笑み。
「…なんでも、ない」
ただ、先程までの冷やかな空気は、いつの間にか消えていることに秋葉は気付きもせず。
そっと、梶原の首に腕を回した。

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