職員通用口

□empty heart
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相変わらず冷たい唇で。
秋葉は梶原にキスをする。
組み敷いた梶原の、ワイシャツのボタンを器用に右手の指先だけで外して行く秋葉を、梶原は不思議そうに見つめていた。
「…男のワイシャツ…脱がすの、慣れてるんですね…」
女物とはボタンホールが反対の、シャツを。
どういう意味にでも取れそうな呟きに、つい秋葉は笑ってしまった。
「お前だって俺を誘ってるくせに…」
明かりを落とした部屋の中でも、間近に見える秋葉の肌は少し白くて。
自分より僅かに華奢な肩を…そこにある傷を、梶原はそっと下から手を伸ばして、シャツ越しに撫でた。
「触んな」
ボタンを外しかけていた手を止めて、秋葉は梶原の手を掴む。
「触られたくない」
悲しげに見上げて来る梶原に、秋葉はそう言った。
「見せてよ……」
少しでも、心を許してくれるのなら。
「……前に言ったろ…俺には、愛とか…そんな感情は分からないから」
だから愛のない、身体だけの関係だと。言外に言って。
「そんなんで、簡単に俺に抱かれていいのかお前は」
ずるい問いかけだと自覚はしていた。
秋葉はもう一度梶原に短くキスをして、その耳元でささやく。
「俺はきっと、お前を傷つける。それでも…いいのか?」
きゅっと唇をかみ締め、梶原は両腕で秋葉の背中を抱いた。
「俺は…秋葉さんが好きだから…」
それは秋葉にとっては、一途すぎる感情で。
飲み込まれそうに、得体の知れないもの。
梶原は秋葉を引き寄せて、自分から唇を重ねる。
閉ざされた心に、体温を移すように。
「…それでもいい」
まるで聞き分けのない子供のように。
切実に相手の心を欲しがっているのは、一体どちらなのか。
「秋葉さんは……愛なんて錯覚だって…思ってるんでしょ?」
指先で頬に触れながら、梶原は問う。
秋葉はそれには答えなかった。
「……だから、俺の心を…あなたにあげる」
気が済むまで、試せばいい。
形の無い想いが、錯覚なのかどうか。
「だから、もう…泣かないで」
不意に胸の奥を何かに掴まれた様な衝撃を感じて、秋葉は顔をしかめた。
「……泣いてない」
言い返された言葉に、梶原は笑った。どこまでもこの無邪気さで。
梶原は秋葉の心にするりと入り込む。
そして。
確実に、狂わせ始めている。

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