職員通用口

□insanity(相模×秋)
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粉々に壊される

理性が
感情が

己の総てが


軽い音がして、シャツのボタンが飛んだ。白かったそのシャツは、もう既に自分の血を吸い込んで重たく赤に染まっていて。だがそれは、今自分を組み伏せて見下ろしている男の狂気を宿した目には、『赤』として認識されていない。
ただでさえ、失血のせいで意識が遠のきかけているのに。
焦れたようにシャツは破られ、同じく血に染まったタンクトップもナイフを使って引き裂かれる。
かちゃり、とベルトを外される音が聞こえ。
秋葉は初めて、絶望した時には意外とそれを通り越して笑えて来る事を知った。
だが、それもそこまでで。左肩の、まだ血が止まらない傷口を舐められて鳥肌が立つ。
痛みと、恐怖と。
「血の色って……どんな色なんだ…」
相模は傷口から唇を離し、呟く。
「知、るか……。殺したいなら……早く…殺せ…」
肩から全身に広がる熱。ひと呼吸ごとに痛みに苛まれる。
「血の味なら分かるのにな」
相模は笑い、秋葉にその唇を重ねて、今彼の傷口からすくい取った血液を秋葉の口内に移した。
目を閉じてしまえない。怖くて。今、目を閉じてしまったらー。
そこに待っているのは間違いなく『死』のはずだ。秋葉は相模を睨むように見つめる。
それに気付き、相模は秋葉の頬を撫でた。
「いつまでその目、見せてくれる?」
生きたいくせに。と相模は酷薄な笑みを浮かべる。
不意に冷たい感触が首筋を伝い、その後でじわりとそこが熱く痛み始める。
相模が手にしたナイフで。少しずつ、切り刻まれる。
「殺せよ……」
自分を殺して満足するならば。その代わり、秋葉も相模を殺すつもりだった。
それしかこの悪魔を止める術がないなら。
まだ動く右手を伸ばせば、ギリギリで届く場所に銃が無造作に置かれている。
あとは行動に移した時に、相模に刺されるのが早いか、自分が撃つのが早いか、だ。
いや、撃つ力が残っているか、だろう。
秋葉は残された力で身体を捩る。右手の指先が銃身に僅かに触れた。
「……っ」
「やめとけ」
傷口を押さえつけられ、秋葉は息を飲んだ。
だが、辛うじてその指先が銃を引き寄せた。
ほんの数秒、意識が飛んでしまう。相模はその間に、秋葉の下肢を露にした。
「お前を殺してやりたい。粉々に。壊してやりたい」
耳元で囁かれて、秋葉は握り締めた銃を持ち上げる。こんなに銃を重いと感じた事は、今までなかった。
「お前には撃てない」
まるでそれは暗示のように。相模は笑ってそう言う。銃口をわざわざ自分の胸の真ん中に当てさせて。
「ほら、撃てない。だから無駄だよ」
そして、銃ごと掴んだ秋葉の手を床に押しつける。弾みで銃は手から離れ、床の上を滑った。
「教えてやる。お前は、俺のものだ」
その命は、今自分が握っているのだと。そう宣告して。
相模は秋葉の両足を開いた。
声だけは、絶対にあげないと。秋葉は唇を噛み締めた。
だが。
無理矢理に割り開かれる身体の激痛に目眩がする。
やめてくれと、懇願してしまいそうになる。魂を手放してしまいそうに。
相模の吐息が耳にかかり、秋葉はきつく目を閉じる。何かの感覚を遮らなければ、耐えられない。
「諦めろ……」
浅い呼吸の合間に、相模は秋葉の奥まで身体を進めて来た。
内臓を激しく圧迫され、呼吸すらままならなくなる。
狂気に満ちた表情で相模は秋葉の唇を舐めた。
「なあ、血の色を教えてくれよ……」
手にしたナイフの切っ先を秋葉の胸に押し当て、肌に沈める。
「………っ」
浮き上がる赤い血液。
「そんなに締め付けるな」
「違……ぁっ」
嘲るように言われて、秋葉は噛み締めた唇をほどいた。その瞬間を狙ったように一度大きく突き上げられ、秋葉の口から悲鳴があがった。
「相模…っ…」
掠れた声は、むしろ相手を煽るだけで。
「連れてってやるよ、地獄へ。死ぬのが先か狂うのが先か。自分で確かめろ」
無茶苦茶に突かれ、身体を揺らされる。
「…い……や…っ」
肩の傷から受ける負担はとうに限界を越えていて。
このまま意識を手放してしまえれば、どれだけ幸せだろう。
「ん、ぅ……っ」
秋葉は何度も首を振り、指先が与えられる刺激で跳ねるのを恥じるかのように、床に爪をたてる。
責立てられて、壊されて行く。
相模は、秋葉の正常な精神の、ほんのひと欠片でさえ残す事を許そうとしない。
「お前がどんな声で喘ぐのか…聞きたい…」
どんな声で、どんな表情で。乱れて墜ちるのか。
その孤独で満たされた透明な心が。
「やっ…あぁっ……」
角度を変えて突き上げられ、救いを求めるように宙へ伸ばされた秋葉の右手が、力なく床に落ちる。
「相模…っ」
あと少しで、自分は狂う。正気というたがが外れる。
「あ、あ、……っ」
反らされた首筋と背中。秋葉は徐々に苦痛だけではない、得体の知れない感覚に襲われ始める。
「墜ちろ…」
唇で耳を塞がれ。
聴覚から脳まで犯されて。
「墜ちてこい…秋葉」
どこまでも。
狂気に囚われて。

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