職員通用口

□雨上がり(梶×秋)
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まるで雨のようなシャワーに打たれながら、二人はキスを交わす。
「ねえ、秋葉さん…?」
今日の秋葉はいつもとは少し違う気がして、梶原はその理由を問おうとする。
しかしその問いはやはり秋葉の唇に塞がれた。
「う、わっ」
不意に肩を押され、梶原はよろけるようにバスタブの縁に座らされる。
秋葉は梶原の前に両膝をつき、両手を梶原の背中に回して自分の方へ引き寄せた。
その右頬に軽く触れるだけの口付けをして、耳から首筋へと滑らせる。
いつの間にか秋葉の指先は梶原の背中を離れ、ジーンズのボタンを外していた。
「秋葉さ…、何…っ」
もどかしげに梶原に一度腰を上げさせ、秋葉はそのジーンズとトランクスを膝の辺りまで引いた。
そして露わになった梶原を。
舌先で舐める。
「秋葉さ、ん……っ」
梶原の上擦った声はシャワーの音に消されそうだった。
添えられた秋葉の指先と唇は、相変わらずひどく冷たいのに。
舌先と口の中は温かい。
「秋葉さん…!?や……っ」
梶原は思わず秋葉の黒い髪を両手で掴んでしまう。
髪を指に絡められ、秋葉は上目遣いに梶原を見つめ、ゆっくりとそれを舐め上げて少しだけ笑った。
「ん…っ」
まるで猫のようにそれを舐めた後、秋葉は喉の奥まで梶原を含んだ。
眉を寄せながら、舌と唇と指を使い、一気に梶原を追い上げようとする。
「い、っちゃいますって…っ秋葉さっん、駄目…っ」
梶原は初めて秋葉から与えられる快感に、無意識に秋葉の上顎に自身を擦り付けるように腰を揺らしてしまう。
「秋葉、さん……っ」
悲鳴のような声のあと。
秋葉の口の中に、生暖かい苦味が広がった。
半ば呆然と梶原は肩で息をしながら、同じように呼吸を乱して俯く秋葉を見つめる。
その唇の端から、白く濁った液体が一筋、顎へと伝い落ちた。
顔を上げた秋葉の首筋から鎖骨へと更にそれは流れ落ちる。
それを見た時。梶原は秋葉をひどく汚してしまったような気がした。
「飲んじゃ、駄目!秋葉さん、気分悪くなっちゃうから…吐き出して……っ」
梶原がそう言ったものの、秋葉の喉が一瞬早く何かを飲み込む動きを見せた。
「秋葉さん……?」
ぺたり、と梶原の膝に頬をつけ、秋葉は深く溜息をつく。
「………熱い……のぼせた……」
梶原の腕に手を伸ばし、それを支えに秋葉は立ち上がる。
ふらりと自分の方へ揺らいでくる身体を梶原は慌てて抱きとめた。
「水、浴びますか?」
「うん……」
梶原は右手でシャワーの温度を調節し、それでお互いの体温を下げる。
「ジーンズ、重たい…脱いでいい?何か…水死する人の気分が……少し分かる気がする…」
秋葉は物騒な事を呟き、梶原から離れる。
もう一度頭からシャワーを浴びるとドアを開け、足は踏み出さずに手を伸ばして大きめのバスタオルを2枚掴んでバスマットの上に置く。
「……色落ちしそうだな…」
顔をしかめて秋葉はジーンズを脱いだ。
その気怠い仕草さえ、今は扇情的に思える。
「俺、このジーンズ先週買ったばっかですよ」
梶原も笑い、ジーンズを脱ぎながらシャワーを浴びた。
「ジーンズは逆さにして洗って干さなきゃ駄目なんですよね。型が崩れて」
「お前本当にそういうのに細かいな…」
シャワーを止めて梶原は秋葉からバスタオルを受け取る。
適当に自分の身体を拭いた後、秋葉が髪を拭いているそれをやんわりと取り上げる。
「ちゃんと拭かないと、今度は風邪引いちゃいますよ」
秋葉の髪を拭き、背中を拭いてやる。
「今日は……何かいつもと違うんですね、秋葉さん」
おとなしくされるがままになっている秋葉の顔を梶原は覗き込んだ。
「何かもう……動きたくない…」
疲れたように言う秋葉の身体をバスタオルで包むと、梶原は秋葉を抱き上げた。
「秋葉さん……やっぱり痩せたよね?」
いくら秋葉が華奢だとは言え。明らかに腕にかかる重みが足りない。
「あのさ、別に自分で歩けるけど…」
秋葉の抗議を無視して短い廊下を歩き、ベッドまで秋葉を運ぶ。
丁寧にその身体を横たえて、梶原は秋葉の頬を撫でた。
雨はまだ降り続いている。
「後は全部、俺にやらせて?」
梶原は何かを言おうとした秋葉の唇を封じた。
徐々に秋葉の弱点である首筋へと唇を移動させる。
そして、梶原が左肩の傷跡に舌を這わせた時。
秋葉の身体が一瞬で緊張するのが分かった。
左手は梶原の腕を掴み、右手はシーツを握り締めていた。
「秋葉さん……怖い?」
梶原から目を逸らし、秋葉の虚ろな視線は過去に囚われる。
この傷跡には梶原が何度触れても、駄目だった。
秋葉はそれに触れられることをひどく恐れる。
その度に、梶原は秋葉の心の傷の深さを思い知るのだ。
そして、よく、秋葉が生きていてくれたと思う。
それ以上にこの消えない傷を秋葉に残した相模が憎い。
梶原は、『憎悪』という強い感情を今まで胸に抱いた事が無かったのだ。
確かにそれに似た感情はいくつも知っている。
だが、これほどひどく他人を憎んだのは初めてだった。
これを『憎悪』というのであれば、今までの感情はその足元にも及ばない。
梶原は強張った秋葉の指に、ゆっくりと自分の指を絡めた。
「秋葉さん……」
その耳元で、名前を呼ぶ。
秋葉の指が僅かに梶原の手の甲で跳ねた。
傷跡に触れられる度、秋葉にも葛藤が生まれるのだ。
「………っ」
引きつってしまいそうな呼吸の中で、秋葉は自分に言い聞かせる。
今、自分に触れているのは梶原で。
彼は自分を絶対に傷つけない。
絶対に。
そして秋葉は少しずつではあるが、身体の力を抜いていく。
「大丈夫ですか?」
秋葉は不安気に瞳を覗き込む梶原に、僅かに笑んでみせた。
窓とカーテンを閉めた部屋は薄暗い。
ベランダの室外機の音が微かに聞こえた。
梶原は秋葉を抱き起こすと、その腰を撫でた。
「あ………」
腰から、背筋へと。何度も指先を往復させる。
膝立ちの秋葉は、梶原の肩から背中へ両手を回した。
「この方が、いいですよね?」
お互いの身体が密着して秋葉が安心できる。
梶原は秋葉の唇を舌でこじ開け、秋葉の舌先を絡め取った。
片腕で秋葉を抱き締め、反対の手は秋葉の頬を撫でながら。
唇を解き、まだ少し開いたままの秋葉の唇に指先を近づける。
秋葉はそれを自然に口に含んだ。
温かい口中は、先程の行為を彷彿とさせる。
「もうちょっと、こっち来て…秋葉さん…」
梶原は秋葉を引き寄せると、自分の膝を跨がせる。
そして秋葉の口から指先を引き抜くと、それでそっと最奥に触れた。
「ん……っ」
逃れようと秋葉が腰を浮かせるのを許さず、梶原は時間をかけてその場所を慣らしていく。
「……っぁあ……っ」
一本ずつ指が増やされていく。
秋葉の身体はその度に跳ねた。
奥まで差し入れた指先を曲げて、梶原は秋葉が声を上げた場所を何度も刺激する。
「い、や……っ」
その苦痛が少しでも軽減されるように、梶原は秋葉をきつく抱き締めた。
「かじ、わら……」
秋葉の口から漏れる、少し幼さが垣間見える呟き。
それでもその吐息は艶やかだ。
「梶原……っ」
意図的なのか、無意識なのか。
秋葉は梶原の耳元でねだるようにそう囁く。
涙と熱で濡れた瞳で見つめられて、梶原の理性は簡単に飛んでしまいそうになる。
梶原は、サイドボードに置いていたゴムの包装を指先と歯を使って開けた。
秋葉を宥めるようにその背筋をもう一度撫でながら片手でそれを着ける。
「ゆっくり、ね。秋葉さん…」
秋葉は梶原に縋りついた。
「い………た……」
梶原の肩口に顔を伏せて、何度も浅い呼吸を繰り返しながら受け入れていく。
身体と心がばらばらに引き裂かれるような瞬間。
引いていた汗が、玉のように肌に浮く。
「…………あっ!」
全てを受け入れて、その熱と量感に慣らされる。
細い腰を支えられながら少しずつ動かされ、秋葉は震えた。
「く…っあぁっ………」
押さえきれない声を、秋葉はそれでも押さえようとするように、梶原の肩を軽く噛む。
「噛んじゃ駄目」
すぐ側にある秋葉の耳にからかうような言葉を囁き、梶原はそのままその耳朶を口に含んだ。
「くぅ…っん……っ」
喉を反らせた秋葉の、その首筋に梶原はお返しとでも言うように甘く噛み付く。
切なげに閉じられた秋葉の両目から涙が零れ落ちた。
「……っ梶原……」
梶原の背中に爪を立て、秋葉は喘ぐ。
快楽だけを追い始めた秋葉はひどく綺麗で。
日常の、怜悧でストイックな姿からは想像もつかない表情を見せる。
ただ、少し病的にも思える痩せ方だけは、その身体を抱いている梶原の不安材料ではあったが。
このまま腕の中に閉じ込めてしまいたい衝動にも駆られ、梶原は秋葉のまだ濡れて乱れた髪を撫でた。
「梶、原……」
うわ言のように掠れた声で何度も梶原を呼ぶ。
「もう……っや、だ……っ」
「イきたい……?」
羞恥心を煽るようなその言葉に。
秋葉は一度だけ微かに頷いた。
「ぁっ…っやだ…梶原っ……ん、あぁぁっ」
梶原の両手で急に激しく身体を揺すられて、秋葉は半ば意識を手放した状態で嬌声を上げた。
「秋葉さんも…動いて…」
梶原は片手を離し、自分たちの身体の間にある秋葉自身をその動きに合わせて緩やかに扱く。
「ふ……、ぁっ」
秋葉の背中がしなやかに反らされ、梶原の手の中に白濁が吐き出された。
「………っ」
秋葉は梶原を抱き締めたまま、その汗ばんだ肌越しに伝わる鼓動を感じている。
梶原も、お互いの呼吸が落ち着くまで、秋葉の身体を支えて抱いていた。


遠雷はまだどこかで聞こえていたが。
いつの間にか雨は止んでいた。

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