職員通用口

□理由(梶×秋)
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密やかに

その唇から紡ぎだされる

声にならない声を

俺だけに聞かせて




「す…っごく嫌なんだけど…」
秋葉は『すごく』の部分に力を込めて、複雑そうに呟いた。
風呂場の床に座らされ、梶原に髪を洗われている。
「だって、秋葉さんが負けたんだもん」
秋葉が何に負けたのかというと、昨日、署の講堂で行われた逮捕術の訓練で梶原に柔道で一本取られたのだ。
剣道ではほぼ互角の勝負が出来るのだが、梶原は柔道が得意だし、秋葉は柔道よりも合気道が得意だ。
力で相手を崩すよりも、秋葉には自分の身体に負担をかけずに相手の力を最大限活用し、勝ちに持ち込む武術のほうが合っている。
ただ、職場での訓練は柔剣道が主なので、秋葉は週に1度、近くの合気道の道場へ通っている。
「だから嫌だって言ったのに。柔道じゃ絶対お前に勝てないんだから」
「負けは負けです」
拗ねたように言う秋葉の髪を梶原は指先で梳いた。
「いいですね、黒い髪ってうらやましい」
ちなみに負けた方が勝った方の言うことを聞く、というルールだったので、こんなことになっている。
「よくねえよ」
「え〜、そうかなあ。こんなに綺麗なのに」
きめ細やかな泡で梶原は秋葉の髪を丁寧洗う。
前髪が伸びて秋葉が鬱陶しそうにそれをかきあげる仕草が少し好きだったりする。
「綺麗とか言うな、馬鹿。もういいだろ、いつまで洗うんだ」
「嫌ですか?」
「嫌。疲れた。目、開けたい」
泡が入ってはいけないからと、秋葉には目を閉じさせている。
「じゃあ、流すからちょっと下向いてて下さい。目、開けないでね」
梶原はそう言って、シャワーを手にする。
秋葉は軽く溜息をついて、梶原の胸に背中をつけた。
「下向いてって言ったんですけど?」
目を閉じたまま、秋葉は顔を上げる。
その瞼は、いつもは青みがかかったように見えるのだが、今は湯気のせいでごく薄い紅色に色づいている。
「…なんか…あたってるんだけど…?」
秋葉は揶揄するように言う。
「…すみません。秋葉さんが色っぽくて、つい」
梶原は苦笑して適温に調節した湯で秋葉の髪を濯ぐ。
「じゃ、次身体」
「まだやるの?」
秋葉は濡れた髪を両手でかきあげた。
「だって秋葉さんが負けたんだもん」
「も、俺、絶対お前と勝負しない」
少しうんざりとした口調で秋葉が呟いた。
「いいじゃないですか、たまには言う事きいてくれても」
柔らかい香りの、ボディソープをスポンジに含ませ、梶原はそれを泡立てた。
「後ろからなんで…やっぱり目は閉じといて下さい」
秋葉の身体を引き寄せ、左腕を取る。
そういえば、以前は手に血がついている悪夢を見ては、秋葉は手を洗っていた。
そんな事を思いながら、秋葉の指先を丁寧に洗っていく。
指先から腕、そして肩へとスポンジを滑らせる。
「大丈夫だから。怖がらないで」
梶原は、傷痕に触れる前に秋葉に言う。
その傷痕を、最初は見せる事すら拒んでいた秋葉が、今はこうして大人しくそれに触れさせてくれる。
秋葉が徐々に心を許してくれている、その事が素直に嬉しい。
その時だけ、背中が緊張したものの秋葉は梶原の腕の中で動かずにいた。
喉元から少し顔を上向かせ、顎を洗う。
秋葉が、ふとその目を開いた。
「お前……今、何考えてんの?」
「睫毛……長いなあ、とか…」
そう言いながら、梶原は秋葉の身体の右側を洗う。
背中を洗い、一度シャワーで泡を落とし、次は足へ。
秋葉の左足を少しだけ開かせる。
内股を撫でた時、秋葉の身体が僅かに跳ねた。
「梶原……」
身体を洗うという本来の目的を外れた手のひらの動きに、秋葉は声を上げる。
それには構わず、梶原はスポンジを置き秋葉自身に触れる。
「な、に……」
秋葉は梶原の手を振り解こうとする。
「駄目。大人しくして」
その抵抗を軽く封じ、少しずつ固くなっていくそれを、ゆるゆると上下に扱く。
「……ん……っ」
親指の先で先端を撫でると秋葉の息が弾み、身を捩りながら首を振るたびに水を含んだ黒い髪が水滴を飛ばす。
「嫌……っ」
秋葉はいつも無意識に身体の左側を庇う癖がある。
自由になる左手で身体を抱き締めている梶原の左腕にすがりつき、少しでもその刺激から逃れようとする。
「気持ちイイ、でしょ?」
無防備な右側の頬と首筋に唇で触れる。
「……梶原っ!や、め……っ」
浴室に声が響いてしまい、秋葉は梶原の腕に顔を伏せた。
「ん、ぅ……っ」
右足が床を滑り、その指先が快感の度合いを示すようにぴんと張りつめている。
「秋葉さんが……イくとこ見せて……」
「やだ…っ嫌……ぁっ」
梶原はそう囁き、その右手が秋葉を追い上げる。
「…ぃ……っ」
「…イって…大丈夫だから」
秋葉の背中が反った。梶原は一層強く秋葉を抱き締める。
「あ…ぁ……っ」
密やかで、艶めいた声を上げ、秋葉は梶原の手のひらに白濁を放つ。
くたり、と梶原にもたれ、快感の余韻に呆然とした様子で浅く、深く呼吸を繰り返す。
梶原は起伏を繰り返すその背中をゆっくりと撫でた。
「梶原っ……」
「何?」
若干非難の色が含まれた秋葉の声に、梶原は気付かないふりをした。
「お前……何で、最近風呂場で……が好きなんだ……?」
呼吸を整える秋葉の身体に、梶原はシャワーで湯を浴びせる。
「聞きたいですか?理由……」
真顔で覗き込んでくる梶原に、秋葉は言葉を詰まらせた。
「も、いい………」
手元に転がっていたスポンジを取り、秋葉はそれを濯ぐ。
「あのね……ここって秋葉さんの声が……」
「もういい!!聞きたくない!!」
秋葉は背後にある梶原の身体に右肘を打ちつけた。
「いったぁ……!!声が響くから……」
「もういいって!!」


あなたが腕の中で乱れる姿が好き。
そんな事は絶対に言えない。

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