職員通用口

□致死量(梶×秋)
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心と身体を

引き裂かれて

狂わされる

そのまっすぐな愛情は

致死量をはるかに越えて

柔らかく、確実に

俺の息の根を止めに来る



脊髄をチリチリと一瞬で駆け上がる、熱。
快感は、一定ラインを過ぎると俺を狂わせ始める。
「…っ、あぁぁ……っ」
震える手のひらを精一杯開き、その手に触れた梶原の腕に強く爪を立て。
目を閉じ、耳を塞いでしまいたくても暗闇に墜ちる恐怖には勝てず。
ゆらりと揺れる視界と、脳を直接犯してくる波から逃れるために何度首を振っても。
「逃げないで」
耳元で梶原が囁く。
何処までも残酷に追い詰められる。
「も、う、許し……て…っ」
ちっぽけなプライドも何もかもを放り投げ、懇願したところで赦されるわけもない。
更に強く突き上げられて、一瞬意識が飛びそうになる。
「……ん……うっ」
汗ばんだ肌を重ね、我を忘れて喘いで。
「い…や、ぁ……っ!」
そう、何もかもを忘れて。
相手の肌を傷つけるまで見境もなく爪を立てて。
理性はとっくに何処かへ消え失せ。
感情はこのスピードには追い付かず。
がくがくと身体を揺すられ、深い場所を抉られる。
「縋って……」
そっと俺の手を自分の肩に導いて、梶原が舌を絡めてきた。
脱げかけのシャツが腕に張り付いて邪魔で仕方がない。
俺の腕は梶原の肩から滑り落ち、シーツの上で跳ねた。
服を全て脱ぐ余裕すらなく、俺は抱かれている。
「あ、ぁ……」
手が梶原の身体から離れた途端、訳もなく不安に襲われ、俺は身を捩った。
「助け、て……っ」
助けて。
助けて。
言葉が反響する頭の片隅で、もうひとりの『俺』がひどく冷ややかに俺を嘲笑う。
こうして梶原に抱かれている間だけは、俺は……狂える。
そう、俺はもうとっくに狂っているのかもしれない。
「秋葉さん」
その思考を打ち消すように。
梶原がもう一度俺の右手を握り締めて肩へと引き上げた。
「ここにいるから。怖く、ないよ」
左手も同じようにした後で、梶原は左肩の傷跡に舌を這わせる。
鉛の玉が皮膚と肉を抉り、貫き、そして残された異様な形の傷。
「く……、あぁ……っ」
そこに触れられる。
それだけで。
イきそうになる。
俺は梶原に縋りつき、その身体に足を絡めて衝撃を堪えた。
「………っ」
本当は、まだ。
この身体の中に弾丸が残されていて。
じわじわと染み出た毒が、俺の神経を蝕んでいるのではないだろうか。
そんな錯覚さえ覚える。
「秋葉さん」
梶原が頬を寄せてくる。
間近で聞こえる吐息。
ああ、そうか……。
俺を狂わせるのは毒ではない。
「あぁ…っ」
少し身体を起こして動きを止めた梶原が、不意に一度大きく突き上げてくる。
束の間訪れた静寂に、乱れる息が響く。
「………っ!」
また、一度。
予測のつかないタイミングで崩される。
声が掠れ、呼吸をするたびに喉が耳障りな音を立てた。
「秋葉さん……」
ぱたり、と汗が胸の上に落ちてくる。
それが喉元に流れる、そんな僅かな刺激にさえ反応する自分の身体が疎ましく思えて。
もっと、何も考えられなくなるくらい。
奥深くまで。
「梶……、原……ぁっ」
結局俺は、彼の名を呼んでしまう。
梶原の背中を引き寄せ、俺は溺れながら墜ちていく。
弾け飛びそうな意識の中で、教え込まれる。
俺を狂わせるのは、生ぬるい毒ではなく。
「………っ」
この身体と精神を浸食していくのは。


致死量を越えたお前の愛情。





秋葉は、掠れた悲鳴を上げて意識を手放した。
両手が力を失い、それまで彼が縋り付いていた梶原の背中からシーツの上に落ちていく。
梶原は、乱れた呼吸を整えながら秋葉の身体を抱き締めていた。
本当に、この行為の間だけ。
秋葉はその手のひらから悪夢を手放す。
愛情で縛りつけ、ここまで依存させても、本当は何の解決にもならない事は梶原にも分かっていた。
一過性の精神安定剤にさえ、なりはしない。
「……ん…」
額と瞼、頬に唇で触れると、秋葉が呻いた。
そしてゆっくりと、薄く目を開け梶原の姿をその濡れた瞳に映す。
「…ぁ……」
ずるり、と梶原が体内から出て行く感触に更なる覚醒を促され、秋葉は微かな声を上げた。
そして何かに怯えたように一瞬だけ震えて。
いつものように、急速に表情を失っていくその目。
梶原に身体を拭かれながら、時折、まだ残されていた快感の余韻に秋葉の身体が跳ねる。
それを愛おしく思い、梶原は秋葉の目尻から流れ落ちた涙の跡を指先で拭った。
「一緒に、シャワー……浴びましょうか」
耳元でそう誘うと、秋葉の唇が笑みを結んだ。
「……嫌」
その笑みを封じるように。
梶原はもう一度、秋葉に口付けた。

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