職員通用口

□通過儀礼(黒)(梶×秋)
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秋葉は。
誘えば、この腕に容易く引かれるというのに。
否定の言葉しか吐かない。「あ…、ぃやぁっ!」
汗に滑る背を仰け反らせ、悲鳴の様な啼き声を秋葉が上げた。
彼がこういった行為を自分に許すのは。最大限の、譲歩でしかないと梶原にも分かってはいる。
それでも。
頑なな秋葉の姿に、時折酷く…傷ついた心持ちになるのは、何故なのだろう。



目を閉じた秋葉の喉元を舐め上げれば、ひくりと腕の中で身を震わせた。
シャツの釦を外すと左肩だけ開けさせて、反射的に身を引こうとする秋葉の身体を抱き寄せて。梶原は傷痕にキスを一つ落とす。
びくりと秋葉が肩を揺らした。次いで、細く、長い吐息が梶原の耳に届く。
梶原は僅かに眉根を寄せると秋葉のシャツにかけていた手を止めた。
唇を下へと滑らせ、舌で、赤く色付いた胸の飾りを突つく。
「っ!」
秋葉の肢体が、小さく跳ねた。
「最近、凄く…感じるように、なったよね。…ここ、も」
僅かな感触でも固く尖る粒に。頂きを上から下へと状を際立たせる様に歯で刮ぎ、下から上へと圧し潰す様に舌で舐め上げる。
「やっ!っ…噛む、なっ!」
「歯が、当たっているだけですよ、秋葉さん」
びくびくと跳ねる秋葉の身体を、梶原は押さえ込むようにして動きを封じた。
くちゅりと唾液に塗れた音が己の胸元から聞こえてくるのに耐えられず、秋葉は耳を塞ごうとして。腕に絡まるシャツに阻まれた。
「ぃあっ!」
ちり、と、快感を受け止めていた箇所にきつい刺激が加わり、秋葉は身を捻る。
「噛むと、こう。…ね、違うでしょう?」
「も、っい…そこっ、やぁだ…」
甘噛みの後、宥めるように乳暈ごと執拗に苛まれて。
押さえ込まれた身では、逃げ出すことも叶わず。
秋葉は首を横に振り、快楽からの逃避を謀ろうとする。
「えー…嘘吐きだね、秋葉さん」
下肢に手を伸ばす梶原の顔は、笑みすら浮かべているのに。触れてくる手は容赦がない。
「ほら…嫌なら、こうは…ならないでしょう」
「っ!やっ!」
淡く、先端に液が滲むのを、梶原の指先で知らされ。
立ち上がり震える自身を、やわやわと揉みしだく手に、秋葉の詰めた吐息が悲鳴に転じる。
「嫌?…じゃあ、触らない。胸だけでも…イケるんじゃないかな」
酷な梶原の科白に、秋葉は目を見開いた。
「…嫌、だ…」
「それも、嫌?我が儘だね、秋葉さん」
唇を寄せて来た梶原に、秋葉は眼を伏せ。自ら舌を絡め、流し込まれる唾液を燕下した。
離れた唇を追う様に上体を起こした秋葉の、飲み込みきれず口の端を伝う透明な滴を、梶原が舐めとる。
梶原は身を屈め、肩の痕に恭しく二度目の口付けを送ると、秋葉の白いシャツを手にとった。時間をかけて、それを徐々に脱がせていく。
「じゃあ…どうして欲しい?」
邪気の欠片もない問いかけは穏やかに。欲の光を灯す眼差しを、裏切る。
「…今日のお前、変だ…」
「…なにが?変わりませんよ、いつもと。…口、開けて?秋葉さん」
俯いた秋葉の顔の前へ、右の指をかざす梶原に、暫し躊躇い…。秋葉は、再び目を伏せると、舌を唇に載せて開いた。
「ちゃんと濡らして…そう、上手くなったね…」
無心に、指へ舌を絡める秋葉の、艶やかな黒髪を撫でる梶原の左手は、温もりに満ちているのに。
「指なのに。…感じてる?腰、ぴくぴくしてる…」
「っ、…ぅ…」
口調も変わらず穏やかなのに。梶原は、秋葉を貶める言葉を選ぶ。
頬に朱が昇るのを自覚して、秋葉は上目遣いに梶原を睨んだ。
「だって、本当のことでしょう?…その目付き、誘っているようにしか見えませんよ、秋葉さん」
咥えた指に噛み付きたい衝動を、秋葉が抑えきれなくなる寸前で梶原は指を退けた。
「…噛んでやろうと思ったのに…」
「出来ないくせに。…後ろ、向いて?秋葉さん」
せっかく濡らして貰ったのに、乾いちゃうよ。
笑い含みの梶原の言葉に、秋葉の首元までも朱が、染め降ろしていった。



「ぅ…っく、…も、ぃ…」
膝立ちで、背後から梶原の指に嬲られ、秋葉が呻く。
「このまま…入れるよ、秋葉さん」
うつ伏せたままの顔が見えない体制を、秋葉が不安がるのを知っていながら、指を退けた梶原が告げた。
圧迫感が失せたことに、安堵の吐息をつく間もなく。
「っ!…や、だぁっ!」
指より余程嵩のある異物が侵入してくる感触と…その慣れた痛みに、秋葉が悲鳴を上げた。
そのまま深く突き入れられ、上へと逃れれば大きな手に腰を強く捕えられる。
「ぁあっ!」
更に奥深く梶原が入り込み、秋葉はむずかる様に頭を振った。ぱさぱさと乾いた音が、秋葉の耳に、やけにまとわりついた。
「っ…ふ…や、だ…ぁっ」
大きく小さく繰り返される動きに、朱唇からあえやかな声が漏れる。
しかし、それは否やの言葉。
「イヤじゃ…なくって、イイ、で、しょう?」
律動に同期した梶原の言葉は、浅い呼吸を挟み、途切れ途切れに紡がれた。
「ひ!…ぁ…やっ!」
深々と繋がったまま、腰を回す梶原に、秋葉の喉を嬌声がすり抜けていく。
「気持ち、いい…って、言って?…秋葉さん」
「…ぁ、…や?…かじ、わら?」
不意に止んだ行為に、秋葉が不審の問いを呟く。
「…じゃなきゃ…イカせて、あげないよ?」
「やあっ!」
左手で雄の根本を戒められ、秋葉は叫声を上げた。
再び梶原が律動を重ね、思うがまま弄される。
「あ…やっ!…か、じ…っふっ!」
「イヤ?…じゃあ、ずっと…この、まま…だよ」
梶原は秋葉を犯しつつ、親指と薬指、小指で根元を圧している彼の先端を中指で擽った。
「やぁ…ぅっ!」
その直截的な刺激に秋葉の腰が、慎ましく揺らめく。
「くっ。…イキたい、って、言って。秋葉、さん」
締め付けられた梶原が眉を寄せ、小さく息を詰めた。
梶原の顎を伝う汗が、秋葉の背に零れ落ち、ひくりとその背がしなやかに蠢く。
そんな微小な刺激すら、鋭敏な秋葉の身体は受け取るのだ。
享楽として。
「っ…ぁあ…も、く、るし…」
「イキ…たい、でしょ?…言って、秋葉さん…」
首を横に振る秋葉は、最早肘で上半身を支えることが叶わず、シーツに頭を擦りつけていた。
「…!…っ、やぁ!」
「…強情、だね…。…イキたい?」
動作を止めた梶原の問いかけに、秋葉の全身が強ばる。
そして…おずおずと一つ、秋葉は頷いた。
「…ま、いいや。それで、今日は勘弁してあげる。…俺も、保ちそうにないし。ね、こっち向いて、秋葉さん」
秋葉の中に埋めていた自身を一度彼の身から退け、秋葉が自分へと振り返るのを助け上げる。
崩折れそうな秋葉を、梶原は腕で支えるようにして、深く口付けを交わした。
そうして、再び。体位を変え、交わる。
今度は秋葉が達する様にと、彼を緩く強く扱きながら、左手で秋葉の右足を高く掲げ、梶原は深く、浅く穿つ。
「や!…も、溶け、る…っ!ふ…っ!!」
梶原の首に縋りつく、秋葉の眼尻から一筋、涙が零れ落ちた。
秋葉の達した衝動に、梶原も身を委ねる。
二人の間に漂う荒い呼気が、少しずつ落ち着いていくのを聞きながら、梶原は、秋葉から己が身を離した。
ずるりとした感覚に、秋葉が細やかに身を震わせる。
ふんわりと、息の整いつつあった秋葉の目許が赤らんだ。
その秋葉の姿態に、梶原の口から出でたのは。揶揄の言葉ではなく。
「ごめん…ごめんなさい、秋葉さん」
自分より余程薄い秋葉の胸に顔を埋め、くぐもった声で梶原はそれだけ告げる。
秋葉は、胸元をぽつりぽつりと、温かな雫が濡らすのに気付いた。
「…馬鹿だ、お前」
「馬鹿、ですよ。どうせ」
顔を上げぬまま梶原がぼそぼそと言う。
怠さがあったがそれを押し、秋葉は、梶原の茶色い髪を3回ゆっくりと撫でた。
「俺が前に言ったこと、忘れてた。違うか?」
だから、馬鹿なんだよ、お前は。
囁きは労りを帯びていた。
だから。梶原はためらいがちに、顔を上げた。
「…条件反射?」
「そう。…忘れてたろ?」
自分へと視線を向けていた秋葉と、目が合う。
秋葉の瞳は柔らかく、静かな笑みを浮かべていた。
「…ごめん、秋葉さん」
「忘れたなら、何度でも思い出させてやるよ。…だから、もう、謝るな」
「…うん…」
目を赤くした梶原が頷く。
「じゃあ、わかったなら…キスして、梶原」
悪戯めいた笑みへと変えた秋葉が、梶原の頭を抱き寄せ、耳元に吹き込む。
触れ合う寸前、梶原の唇から一つの言葉が零れた。
「…好き、秋葉さん」
それは、たった一つの真実。

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