職員通用口

□猫・side-B(梶×秋)
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『今日だけ、お前の猫になってやる』


そう笑いながら告げた秋葉は。
まるで猫のように梶原を舐めている。
「秋葉さん……っ」
尖らせた舌で先端を弄ぶように舐め上げ、時折口の中に含みながらも。
梶原が欲している刺激は決して与えようとしない。
梶原の息が上がっていく様を、上目遣いで見ながら妖艶に唇に笑みを乗せる。
「どこで、覚えたの、そんなの……っ」
たまらず、梶原は声を上げた。
秋葉は梶原の身体に沿う様に身体を起こし、ゆっくりとその唇に口付けをした。
「野良猫、だから…ね。どこで何をしてるか分からないよ?それとも……猫の本能。答えにするとしたらどっちが……いい?」
凶悪だ。
梶原はそう思う。
誰のものにもなるつもりがないくせに。
抱き寄せようとした腕を擦り抜け、秋葉はふいっと視線を流した。
「もうちょっと、遊んでくる」
そんな言葉を呟き。
再び梶原の下肢へと移動して行った。
「遊ぶって、ねえ、秋葉さんっ!!」
その言葉とは裏腹に。
今度は真剣に愛撫を加えてくる秋葉に、梶原は悲鳴を上げた。
行為に没頭していくというよりは、冷静に。
的確に梶原が声を上げる場所を探り出すような繊細な舌と指に、思わず身体は反応してしまう。
喉の奥深くまで梶原を含み、右手の指を使って秋葉はただ、梶原が陥落する時を待っている。
「で、ちゃう…ってば!!」
梶原は両足を震わせ、そう叫んだ。
秋葉を止めようとその肩に手を伸ばすが、触るなというように秋葉は身を捩って逃げる。
秋葉が梶原の口中に欲望を吐き出すことを嫌がるのとは別の理由で、梶原もまた、それを躊躇する時があった。
羞恥などという生易しいものではなく。
それによって秋葉を魂ごと汚してしまうような。
そんな気がしてしまうのだ。
「秋葉さん、やめて…っ」
その声すら楽しむように、秋葉は更に速度を上げて梶原を攻める。
「…………っ!!」
びくり、と大きく梶原の身体が跳ね。
秋葉の口の中に、生暖かく異質な感触が広がった。
それを全て飲み下し、秋葉はようやく梶原から離れる。
苦しげに呼吸を整えながら口を右手の甲で拭い、虚ろな目で梶原を見つめて。
「秋葉さん……不味く、ない……?」
秋葉の腕を宥めるように撫で、梶原は問う。
「不味い…けど…お前のなら…飲みたい」
それは雄としての本能。
例え抱かれていたとしても、相手の全てを貪り食らい尽くしてしまいたいという欲求に駆られる時がある。
「ずるいよ、秋葉さん……」
「猫はズルい生き物じゃないのか…?」
秋葉は笑い、梶原の耳朶をやんわりと噛む。
「全部、脱いで…」
梶原が着ていた青いパジャマを掴み秋葉が呟いた。
「俺を飼い猫にする気なら…欲情して…」
猫は気紛れであり、寂しがりな生き物なのだと。
秋葉は梶原の腕からパジャマの袖を抜く。
「う〜…っ」
梶原は快感の余韻と秋葉の言葉に頬を赤らめて、その頬を手のひらで擦りながら唸った。
「犬…」
一切乱れていない秋葉の着衣に手を伸ばし、梶原は鼻にシワを寄せる。
秋葉の身体を抱き寄せ、くるりとその細い身体を組敷いて体勢を入れ替えた。
秋葉は瞬きもせず、梶原を見つめている。
「そんな事…言ってたら。手加減出来なくなっちゃうよ…」
「いつものは…手抜きなんだ…?」
ひとつずつ丁寧にボタンを外しながら言う梶原に、促されるまま背中を持ち上げて秋葉は笑う。
白い肌を露わにされながらのその笑みは、やはりどこか不安定にも見えた。
「またそんな…煽るような事言って…」
言葉は秋葉の唇に塞がれる。
「…淫らな俺が…好き…?」
秋葉は薄い唇を歪めるように笑った。
「……ねえ…壊して、よ…」
壊して。
跡形も無くなるほど、身体も心も粉々になるまで。




梶原に施される愛撫は、優しい。
暗く凍りついた心を身体ごと溶かそうとする。
「………っ」
両肘を突いて身体を起こしていた秋葉が、息を飲んで上体を仰け反らせた。
喘ぎながら、シーツに沈み込む。
「…ぁ……!」
跳ねる秋葉の身体を、梶原は自分の腕で押さえつけ、シーツを蹴るように滑る右足も押さえ込んだ。
突き入れた指で中を探りながら、秋葉を奥まで含んで刺激する。
立てた左足を軸に、上の方へと、梶原から逃れようとする秋葉を執拗に攻め立てた。
「ん…ぁあ…っ」
自分の乱れた声だけが部屋に響き、秋葉は何度も首を振る。
「………は……」
いつの間にか増やされた指は。
ただ一点だけに触れ続けて秋葉を翻弄する。
「秋葉さん……?」
秋葉から唇を離し、梶原は問いかけた。
追い上げられ続け、秋葉からは徐々に彼が普段身に纏っている『正常』な意識が取り去られようとしていた。
それでも。
『壊してくれ』と言った秋葉の心の中では、梶原の窺い知れない何かが彼を苛んでいる。
愛情では包みきれない、何か。
それを秋葉は梶原に見せようとしない。
「秋葉さん…」
もう一度名を呼べば、秋葉は少し怯えたような目を開いて梶原を見る。
「…………っ」
指先まで灼かれる感覚に襲われ、秋葉は身を震わせる。
それは享楽であり、恐怖。
心の底の何もかもが、白日の元に曝される。
「…っ…呼ぶ…な…」
魂を押し殺して、狂った『物』を。
人間に戻そうとするな。
秋葉は掠れ切った声を喉から押し出した。
「く……っあああ…っ」
指を引き抜いた代わりに。
梶原は欲に濡れた怒張を秋葉に宛がう。
それを、時間をかけて秋葉の体内に埋めていく。
ゴムを通して、秋葉の熱が伝わってきた。
柔らかい壁を抉りながら動き始めた梶原の腕に縋り、秋葉は喉を反らせる。
「う……っく……」
律動に、呼吸が乱された。
「んっ……あぁ…っ!!も……う」
「壊しても、いい……?」
正常位で秋葉をゆっくりと突き崩しながら、梶原は秋葉の耳元に囁いた。
秋葉は梶原の肩口に顔を埋め、苦しげに呻く。
そして、頷いた。
自らが望んだ事に、無意識に否定の言葉が発せられないようにきつく唇を噛み締める。
梶原はそれに気付き、秋葉の色を失いかけた唇にそっと指で触れる。
「いいから……。そんなに…噛んだら、血が出ちゃうよ…」
その、触れてくる柔らかさと優しさが、秋葉を苦しめる。
梶原は、秋葉の細い両足を肩に担ぎ上げた。
体重をかけて秋葉の身体をこれ以上ないほどに折り曲げ、身動きひとつ取れないほどにしてしまう。
「あ……ぁっ」
淫猥な音と、淫らな声。
秋葉は梶原の背中に両腕でしがみついた。
耳元にかかる熱を帯びた吐息すら、心地いい。
互いの身体の間に挟まれただけの、微弱な刺激しか与えられていないそこからは、絶え間なく雫が溢れる。
その感触が浅ましい自分を見せ付けているようで。
秋葉の目から涙が一筋零れ落ちた。
「ぅ、ん……っ」
「秋葉さん」
梶原が秋葉を呼ぶと同時に強く中を突き上げた。
「あ……っ!!駄目…っ、やぁぁぁぁっ」
不規則な動きに秋葉は弱い。
「熱……いっ」
梶原から与えられる熱に、どうにかなってしまいそうだ。
それが、恐い。
梶原の手によって壊されることを望みながら、最後の最後で頭をもたげてくるのは恐れ。
「梶、原…、…ぁっ!!恐、い…助け、て……恐い……!!」
それは慣れる事のない、同性に犯される事に対しての恐怖でもあり、押し殺している自分自身が露わにされる事に対する恐怖。
そして。
それを梶原に知られてしまう時が来るかも知れないという恐れ。
曝され、暴かれる。
ざらついた心の全ては、梶原という命をこんなにも欲しているのに。
唇が、心を裏切る。
「恐くない…恐く、ない、から……」
もう、逝こう?
梶原は秋葉に囁いた。
両足を下ろしてやり、秋葉に楽な体勢を取らせる。
「……っ、……い…あぁぁぁ!!」
激しさを増した律動に、秋葉は全身を溺れさせる。
奥深くを突き上げられた瞬間、秋葉は梶原を締め付けた。
温かい液体がお互いの腹を濡らしていく。
梶原はきつく目を閉じて数回大きく秋葉を突くと、動きを止めた。
弛緩していく秋葉の身体。
背中に回されていた腕がゆっくりとシーツの上に落ちていく。
汗で秋葉の頬に張り付いた黒い髪を指先でそっと払い、梶原は乾かない涙の跡も拭ってやる。
意識を手放してしまった秋葉の薄い胸が、上下していた。
「……壊せない、よ…」
梶原はそう呟き、秋葉の唇に触れるだけの口付けをする。

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