職員通用口

□沈丁花(梶×秋)
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沈丁花
みだれて咲ける
森にゆき

わが恋人は
死になむといふ



軽く食んだ秋葉の右手の指先から。
沈丁花の香りがした。
丁寧にその指を舐めた後で、僅かに開いた秋葉の唇を塞ぐ。
沈丁花は、毒のある花だと秋葉が笑った。
意味ありげで、艶めいた笑み。
秋葉の指先から、梶原の唇へ。
梶原の唇から、秋葉の唇へ。
沈丁花の毒が、ふたりの身体を緩やかに侵していく。
甘い芳香を放つ、生ぬるい夜。
2人分の重みを受け止めたベッドが僅かに軋む。
はだけたシャツの間に手を忍び込ませ、胸の小さな尖りを指先で弾けば、秋葉は小さく声を上げて跳ねる。
梶原はそのしなやかな身体を、指先でなぞった。
少しずつ、暴くように秋葉の素肌を露わにしていく。
秋葉も自分がされているように、梶原のシャツに手をかけた。
梶原はその秋葉の仕草に笑み、手を下肢へと伸ばす。
「ん……、ま…って…」
焦らす様に時間をかけて暴いた敏感な場所に触れ、熱を持ち始めたそれを更に育てようとする梶原の手のひらの動きに、秋葉は首を振った。
かすかに震える指先で、梶原の服を脱がせる。
早く、早く。
鼓動と熱に急かされて、性急に求め合う肌。
身体を重ね、長い口付けを交わし。
指をきつく絡めながら甘い毒を分け合う。
「…ふ、ぁ……っ」
ようやく解放された秋葉の唇は、酸素を求めた。
物言いたげに開かれた赤い唇を軽く啄んだあと、梶原は秋葉の耳朶に軽く歯をたてる。
「…ぅ…っ」
貪欲に求める癖に、不意にその欲求を恥じるかのように顔を背ける。
縋るように絡められていた秋葉の指先を離し、背けられた頬に手のひらを当て、梶原は秋葉の顔を自分の方へ向かせた。
その闇の色をした瞳を覗き込む。
僅かな期待と羞恥。
微かな痛みと快感。
それが複雑に混ざり合った秋葉の瞳は揺らめく。
「今日は…目、閉じないの?」
梶原はそっと囁いた。
秋葉はゆっくりと瞬きをした後で、もう一度梶原を見る。
「うん………」
その答えに微笑を返し、梶原は秋葉の隣に身体を横たえた。
「恐い?」
腕の中に抱き込むように秋葉を向かい合わせに引き寄せる。
「恐くない………お前を、見ていたい、から」
「………嬉しい」
梶原が秋葉の背筋を指先で腰の辺りまで撫で下ろすと、秋葉の身体は過敏に反応を示した。
「……や……っ」
梶原の思惑通りに、秋葉は梶原に縋りついてくる。
「沈丁花の、花びらみたい………」
少し汗ばんだ肌に触れ、梶原が秋葉の唇を塞ぐ。
滑らかな素肌は、まるで花びらのように梶原の手のひらに馴染む。
梶原は秋葉の左足を自分の足へ絡ませた。
「…ん…ぁ……」
再び秋葉に触れ、緩慢な刺激を与える。
「秋葉さんも……俺に触って……」
そう促すと、秋葉の指先が梶原の背でぴくりと動いた。
冷たい手が、脇腹を這い。
やがて梶原の熱に辿り着く。
「そう……、今日は手で、イかせて……」
「ふ……っぅ……」
梶原は秋葉を追い上げる。
零れた雫が、手のひらで濡れた音をたてた。
秋葉は梶原の胸に顔を埋め、不慣れな左手で梶原に愛撫を施す。
「ぁ……」
梶原は秋葉を抱いた手で彼の左肩を撫でながら、目を閉じて深い吐息を落とした。
びくびくと手の中で跳ねるお互いの熱は、捌け口を求め始めている。
「秋葉さん………っ」
浮かされたようにその名を呼べば、秋葉は濡れた瞳を梶原に向けた。
伸び上がるように梶原の唇を求めてくる。
右手の指先が梶原の髪を絡め取り、滑り落ちるように首筋に爪を立てた。
口付けを交わす間も、絶えず梶原から快感を与えられる。
腰の辺りに何かがせり上がってくるような感覚を覚え、秋葉は身を震わせた。
「………や……梶、原……っ」
「一緒に、イく……?」
秋葉が達してしまわないように、手の動きを止めて問う。
本当は、そんな余裕は梶原にも無い。
秋葉に触れられているというだけで、理性も自制心も一気に何処かへ飛んでしまう。
「ん………っ」
秋葉は答える代わりに、梶原に指を絡めなおした。
手のひらを濡らした先走りの雫を使い、手のひらを滑らせる。
「あ……、気持ちイイ……秋葉、さん……」
「ん……あぁ……っ」
指先で括れた部分を撫でれば、秋葉が悲鳴を上げた。
もう、体内で駆け巡る熱を吐き出してしまう事しか。
昇りつめる事しか考えられなくなるくらい。
毒は廻る。
狂わされる。
「イ、く……っ」
秋葉は無意識に、更に快感をねだるように腰を揺らす。
秋葉の背を折れる程に抱き、梶原も秋葉の左手に己を擦り付けた。



劣情を吐き出した後の独特の倦怠感に身を任せ、梶原は秋葉の髪に顔を埋める。
微かにまだ。
沈丁花の香りが残っていた。


沈丁花

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