職員通用口

□抱月
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月のように冷たい身体を
抱いて

決して交わる事の無い
体温を

それでも狂おしいほどに
求めて 求めて




かつて。
恐らくこの部屋で、秋葉は奈穂を抱いた事があるはずだ。
その場所で。
今は同性に抱かれている。
秋葉は今、腕の中でどんな感覚を覚えているのだろう。
それを思うと、ふと、梶原の中に小さな冷たい炎が生まれる。
極限まで秋葉を追い詰めてしまいたい。
秋葉が望むように、跡形もなく粉々に。
梶原の肩口に額を押し付け、その身体にすがりついて、秋葉は呼吸を乱す。
「……ぁ…っ」
吐息と共に掠れた甘い声を漏らし。
梶原に捕らわれて、淫らに揺れる。
「…ねえ…秋葉さん?」
「ぅ……、く…」
開かせた秋葉の足を、そっと撫でる。
びくりと身体を震わせ、秋葉はゆっくりと目を開けた。
汗に濡れた漆黒の髪を梳き、誘うように僅かに開いた唇を奪う。
歯列をなぞり、舌を割り込ませる。
「…ん……」
舌を絡めれば、秋葉は懸命にそれに応え。
「……ぃ、…や…あっ」
身体を起こし、緩やかに秋葉の中を抉りながら、左脚を抱え上げる。
突き上げる角度が変わり、秋葉は喉を仰け反らせて喘いだ。
「すごい…秋葉さん…溶け、そう…」
身体を捩らせた秋葉を押さえ込み、胸に舌を這わせる。
「……ん…ぁあ…っ」
滴を零す秋葉を手のひらで包み、ゆるゆると上下に扱けば秋葉の肢体が波打った。
「秋葉、さん…気持ちいい…」
耳元でそう囁いた梶原の声に、秋葉は自身を苛む快感を逃すように何度も首を振る。
荒い吐息に呼応するように、梶原の背中に爪を立て。
そしてまた、力を失った腕を、シーツの上へと投げ出してしまう。
思考をひとつひとつ手放しながら、何もかもを失っていこうとする。
その虚ろな表情を見つめていると、梶原は狂いそうに苦しくなる。
「秋葉さん…」
「……っ」
彷徨う秋葉の意識を呼び戻し、梶原は秋葉の指先を、彼が零した雫に濡れた指で絡め取った。
熱い楔で穿つ、その場所からは、絶えず淫靡な音が響いて。
本当は、秋葉はこの現実すら受け入れたくないのではないだろうかと、そんな事さえ思ってしまう。
こんな夜は。
腕に抱く秋葉がひどく遠く感じられる。
揺さぶられながら、秋葉はきつく目を閉じ、梶原の手を握り締めた。
必死で梶原に与えられる痛みを追いかけている。
痛みと快楽は、きっとどこか似ていて。
「…き、た…ぃ…」
秋葉の背が浮き、譫言のような喘ぎの中で、言葉を紡いだ。
「ぃ…き、た…っ…イかせ…て……」
快楽の底へ。
地獄に似たどこかへ。
「連れて、行って…っ…梶、原……」
深い闇の底へ。
楽園に似たどこかへ。
「……連れて……行って…」
繰り返される秋葉の声が、じわりと聴覚を支配していく。
やはり自分は、少しずつ秋葉に狂わされていくのだ、と。
梶原は、僅かに微笑んだ。
「手、離すね……?」
梶原は絡めていた秋葉の指先を離し、少し浮いた背中に手を入れて華奢な身体を折れる程に抱いた。
「ぁ……っ」
秋葉の身体がしなやかにしなる。
その目から、涙が零れ落ちた。
「いいよ……何処へ……行こうか……」
愛しいあなたと。
梶原の囁きに、秋葉は艶やかな笑みを浮かべた。
虚ろの中へ、堕ちる。
「ふ…ぁ…、あ……っ!」
深い場所を突き上げれば、秋葉は一際高い嬌声を上げた。
お互いに、もう欲を吐き出してしまう事しか考えられなくなる。
競り上がってくる熱が、限界を訴えた。
激情が何処からか溢れては引いていく。
満ち欠けを繰り返す、月のよう。
秋葉の身体は誘うように蠢く。
「ごめん、秋葉さん……イきそ……っ」
その掠れた声に。
秋葉は激しさを増した抽挿に唇を噛んで耐え、梶原の首筋に両腕で縋る。
全てを享受するように、その細い指先に梶原の髪を絡ませた。
やがて、熱は弾けていく。
満たされるのは、一瞬。
繋いだ身体を離せばまた、秋葉の心は孤独に侵される。
「もう、少し……この、まま……」
整わない呼吸のまま、秋葉は呟いた。

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