わんこ&にゃんこ

□猫だから
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君がいる場所なら
とてもあったかいから

どこでもいいんだ

ぼくがぼくで
いられるなら



あ〜ふ、と黒は大きな欠伸と共に、うにうにと伸びをした。
庭の片隅、コンクリの上。
先日は雪が降ったけれど、今日はとても暖かい。
春がすぐそこに来ているのだと思う。
「………」
そよそよと吹いた風に、髭が揺れる。
長い髭はちょっと自慢だ。
先住猫のしゅうじよりもほんの少しだけ長いから。
だがそれは柴犬のカジワラに言わせれば…
「………ごじゅっぽ、ひゃっほ〜…?」
何だったか。
難しい言葉だった。
難しい事はすぐに忘れる事にしている。
考えても仕方ないから。
「何してるの。黒」
ごろんごろんと転がっていると、不意にそんな声が上から降ってくる。
不思議そうな顔をして、先住猫の黒キジのアキバ…自分とカジワラは彼を『しゅうじ』と呼ぶのだが…が見下ろしていた。
「ころがってるの!!」
ごろんごろん。
カジワラは散歩に出かけている。
とはいえ、いつもの脱走ではなく、正規のお散歩だ。
おかあさんと、おとうさんと、こどもたちと。
「ふうん」
アキバは僅かに首を傾げると、そっと黒の側に寄り添う。
特に話すような話題も無く、風に揺れる庭のスイセンを2匹は見つめていた。
「…ねえ」
「うん?」
揺れる、黄色の花。
黒の問いかけに、アキバは優しく答えた。
「しゅうじは、どうしてここに来たの?もらわれてきたの?」
そういえば、そんな話はお互いにした事が無かった。
アキバはしばらく考えて、困ったように笑う。
「最初は、交通事故にあったみたい。この家の前で。助けてもらったけど、ここにつれて帰ってもらったときに恐くて逃げた」
その時の事を思い出したのか、アキバはふるふると左足を振る。
「迷子になってたら、カジワラに見つかって…家族にしてもらったんだ」
「ふうん」
交通事故って痛かったのかな、と思いながら黒は目を閉じた。
ほんの少しだけ、アキバの気持ちを想像してみる。
「黒は?何処から来たの」
ある日、突然にこの庭先に現れた子猫。
やんちゃで、我が儘で。
黒はまん丸な目を開けて、アキバを見る。
「トラックに乗って来た!」
「……トラック?って…あの、国道を走ってるおっきい、こわいやつ?」
心なしか、アキバの毛が逆立つ。
車が嫌いなんだろうな、と黒はまた想像した。
「そう〜!!引越しのトラックだったかも。どこから来たのかな。その前に何してたのかはもう覚えてないや、ちっさかったし」
今でも充分小さい猫。
アキバはその言葉は口に出さず、微笑んだ。
「じゃあ、お互い何処から来たのかわからないね」
「うん…」
不思議とこの庭先に辿り着き、カジワラに拾われた。
正確には、カジワラのおかあさんとおとうさんだけれど。
アキバはそっと黒の頭に前脚で触れた。
「…何するんだぎゃ〜!!!」
「何もしてない!」
触れた前脚に噛み付かれ、アキバは声をあげる。
「みぎゃーっ!!」
以前のように、本気を出した取っ組み合いはもうしない。
黒も手加減を覚えたし、アキバもそんな黒の御し方を覚えたから。
「……カジワラ、遅いね」
「うん……」
カジワラが帰ってきたら、たくさんお散歩の話を聞こう。
猫とは目線の違う、柴犬の見た外の世界の話を聞こう。
そして。
あのふかふかの、クリーム色のお腹に頭を乗っけて眠る。
過去なんて関係ない。
それだけでいいのだ。
それだけで、幸せ。

だって、猫だから。

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