わんこ&にゃんこ

□3月の雪
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季節はずれの雪だった。
空から大きなぼたん雪が降ってくる。
水分を多く含んだそれは、あっという間に辺りを白く塗り替えようとしていた。
「ゆーきっ!!ゆーきっ!!」
窓辺で黒が後脚で立ち上がり、前脚をガラスにぺったりとつけて外を見ている。
飛び跳ねんばかりのはしゃぎようだ。
今日は寒いので、脚の裏をよく拭いてから部屋の中に入れてもらっているのだ。
アキバはといえば、コタツの中で丸くなっている。
元々寒さには弱い。
あったかい場所が好きだった。
「しゅうじーっ!!ゆきーっ!!おいしそう、たべたいーっ!!」
黒は振り向き、コタツに向かって叫んだ。
「………つまんないの」
アキバからは何の返答もない。
黒はぱたりと尻尾を振った。
「カジワラはお散歩いっちゃったし。つまんない」
雪が降ると、だいたいの犬は喜ぶものらしい。
カジワラは元気よく出かけてしまった。
「つーまーんーなぁぁぁぁぁい……」
わざとらしく声をあげるが、反応無し。
「ちぇ。ジジィ猫」
「誰がジジィだ」
ぼそり、とコタツの中から声がした。
「聞こえてんじゃん。いじわる」
ぱたぱたと尻尾を床に打ちつけた後で、黒はコタツに近付いた。
「ねえねえ、しゅうじ」
右脚の爪でコタツ布団を持ち上げようとするが、重くて上手くいかない。
隙間から頭を突っ込めばいいのだが、黒はそれを思いつかないのだ。
ぬくぬくとコタツの中にいたアキバは、少し笑った。
「何?」
仕方が無いので、黒がかんしゃくを起こす前に頭だけを覗かせてやる。
「雪!!!だってば!!!」
途端、上からぺちんと頭を叩かれた。
軽く、だが。
「雪は分かってるよ。寒いから出たくないの、俺は」
「ジジ〜ィ」
「ジジィ言うな」
これ以上叩かれてたまるか、とアキバはコタツの中へ逆戻りする。
「あ!!待って、待ってよ」
アキバが作った隙間から黒が入ってきた。
「………あったかい」
コタツの中は暖かい。
だが、外の雪も気になるし、カジワラの帰りも気になる。
黒は顔だけを外に出して窓を見つめた。
「あ。カジワラが帰って来た」
黒と同じように顔を出したアキバが呟く。
今日は特別に、カジワラも玄関ではなく部屋の中に入れてもらえるはずだ。
アキバと黒は顔を見合わせた。
「玄関までお迎えに行く?」
「うん!!」
コタツの外に出ると、やはり寒い。
ふるっと身体を震わせた後、アキバと黒は玄関へと急ぐ。
「ただいま、しゅうちゃん黒ちゃん!!」
カジワラが外の空気を連れて帰って来た。
「おかえり」
アキバと黒は、カジワラに飛びつく。
季節はずれの3月の雪。
はやく春になればいい。
そうすればまた、陽の当る庭で遊べるのに。
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