わんこ&にゃんこ

□君はトモダチ
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「ヤク〜っ!!」
黒猫が、雨上がりの神社の境内に一匹。
彼はいつものクスノキを見上げて、友人である梟を呼ぶ。
午後3時。
梟は眠っているかも知れない。
「ヤ〜ク〜!!!」
うろうろと黒猫…カゲヒラは木の幹の周りを歩き回りながら呼んでみたものの。
一向に梟…ヤクシジンの気配はない。
「………ちぇっ」
せっかくプレゼントにネズミを持ってきたのに。
カゲヒラは足元に置いたネズミをちょいちょいと前脚でつついた。
「あっ!!!待てこら!!!」
気絶していただけらしいネズミは、慌ててカゲヒラから逃げていく。
追えば楽勝でもう一度捕獲できたのだが、カゲヒラはすっかり意気消沈してしょんぼりと長い尻尾を垂れた。
「………何か用?」
不意にヤクシジンの声が頭上から降ってきた。
カゲヒラはびくりと顔を上げる。
いつものクスノキの隣の、石垣の上にある紅葉の木。
そこにヤクシジンがいた。
「ネズミに逃げられたね、今」
一部始終、すっかり見ていましたと言わんばかりの笑いを堪えた顔だ。
カゲヒラはふいと顔を逸らした。
「居るなら居るって……」
「だってお前をここから見てるほうが面白いだろ?」
いつもこうだ。
梟の方が頭の回転が速くて、賢くて。
カゲヒラは、姿勢を低くして地面を前脚でガリガリと掻いた。
クスノキにはなかなか登れないが、紅葉の木なら簡単に登れる。
勢いをつけて、カゲヒラは紅葉の木に駆け上がった。
「………なんで今日はここに居るんだよ」
「……内緒」
本当は側に行って、すりすりとあの綺麗な羽に身体を寄せたいのだが、そこは猫としてのプライドが邪魔をしてしまう。
カゲヒラは細身の猫一匹分の距離をヤクシジンと取って、木の枝に座った。
こういうバランスならばお手の物だ。
こんな時は自分が猫でよかったと思う。
もしも犬なら、身軽に木登りは出来ないから。
ああ、でも。
何故自分は梟に生まれなかったのだろう。
「……お前が梟だと、俺とは餌場をめぐって争わなきゃいけないね。そっちの方がいい?」
心の中で呟いたはずの言葉は、全てカゲヒラの口から出て行っていたようだ。
ヤクシジンは目をくるくると丸め、首を傾げる。
「やだ」
「俺、本気になったら結構見境ないよ?縄張り争いに負けたことないし。絶対俺に近寄れないけど、そっちの方がいい?」
「……やだ」
しおしおとカゲヒラは項垂れてしまい、その後でヤクシジンにからかわれている事に気付く。
「あのネズミ、どうしたの?」
「……や、別に……お前にプレゼントしようとか思ったわけじゃなくて……」
ほ、ほう…とヤクシジンは鳴いた。
「言っとくけど、俺、ああいうネズミは嫌いだから」
「…………」
更にしおしおとカゲヒラがしおれていく。
ヤクシジンはその姿が楽しくて愛おしくて仕方が無い。
「……まあ、でもお前からもらうならどんなプレゼントでもいいんだけど?」
バサバサ、とヤクシジンは翼を広げながら呟いた。
「え?」
カゲヒラが何かを言うまえに、ヤクシジンはひらりと滑空する。
「あっ!!ヤク!!」
「早く来ないと遊ばないよ?」
カゲヒラは飛び降りられる高さの枝まで行き、そこから一気に地面へとジャンプする。
着地したところを狙い、ヤクシジンが飛んできた。
鋭い爪で、ちょん、とカゲヒラの頭をつつく。
もちろん、本気ではないので痛みなどは感じない。
(ああ、やっぱり俺も梟になりたいなあ……)
カゲヒラは、ヤクシジンを見上げて思う。
充分に助走して、低く飛ぶヤクシジンの身体目がけて地面を蹴る。
時折カゲヒラの前脚に捕まえられてやるのがヤクシジンの楽しみだ。
(黒猫ってしなやかで綺麗だなあ……)
ヤクシジンはヤクシジンでそんな事を思っている。
カゲヒラが図に乗るので、絶対に口には出さない事にしているが。
境内に降りて楽しくじゃれていると、ふと何処からかこちらを見ている視線を感じた。
ぴたり、とカゲヒラとヤクシジンは動きを止める。
入口の鳥居から続く階段で、ひょっこりと柴犬と猫が二匹顔を覗かせていた。
カゲヒラは慌てて毛繕いをする。
ヤクシジンは近くの木の枝に舞い上がって身を隠した。
「………おじちゃんたち、何してるの?」
柴犬が首を傾げている。
「うるせえっ!!カジワラ!!お前また首輪抜けて来たんだな!!飼い主に言いつけてやっからな!

柴犬のカジワラはまだ首を傾げていたが、側にいた猫のアキバがちょいちょいと彼を促した。
「アキバ!!お前も監督不行き届きで同罪だからな!!!」
「……なんで俺が……」
アキバは溜息をつく。
「ねえねえ、梟のおじちゃん、かっこいいね!!」
もう一匹の猫の名前は黒だったか。
厄介な連中に見られてしまった。
「ああもう、散れ散れ!!!解散!!かいさーん!!!」
カゲヒラの声に、カジワラとアキバと黒は納得いかないという表情でそろって首を傾げた。

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