わんこ&にゃんこ

□今日のわんこ・2
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繋がれているけれどシアワセな君と

自由だけれどサビシイ僕


ねえ


どんなに望んでも
どんなに願っても


猫は、猫


僕は君とは、違う生き物



初めて家族が出来た日。
僕は嬉しくて嬉しくて。
でも、黒キジさんは顔をしかめてこう言った。
「お前、犬くさい……」
「………だって、犬ですから……」
若干距離をとりたがる黒キジさんをかぷりとくわえて。
「にゃああぁぁっ!!」
じたばたと暴れる黒キジさんをよっこいしょと抱っこして。
黒キジさんが諦めて眠ってくれるまで。


僕は。


本当に、家族になりたかったんだ。


冬の寒い朝。
目が覚めると、黒キジさんは消えていた。
さっきまであったぬくもりが、まだ微かに残っていた。
鼻先に触れた、黒キジさんの小さな手。
さよならも言わずに、黒キジさんはいなくなった。
夜になっても、次の朝になっても。
その次の朝になっても。
黒キジさんは帰ってこなかった。


あの日、仲良しのモモちゃんは僕に言った。
『黒キジさんは、私みたいに家猫になれるのかしら』
家猫?
ねえ、モモちゃん、家猫ってなあに?
『あの子はそれで、シアワセかしら、ね』
ねえ、モモちゃん。
シアワセってなあに?



とっとことっとこ
ちゃっちゃかちゃっちゃか


僕の足音が聞こえると、モモちゃんが窓越しに顔を覗かせた。
モモちゃんは白い白い日本猫。
片方のお耳に、ちょっとキジ模様があるの。
ちょっぴり無口だけれど、とても優しい。
僕の日課の脱走も、内緒にしていてくれるし。
「モモちゃん」
僕はこっそりモモちゃんのおうちのお庭に入って声をかけた。
寒い冬の朝だから、ぴたりとガラスの窓は閉じられていて。
モモちゃんはひらりと尻尾を振って僕を見た。
何でも知ってるモモちゃん。
今日も猫集会の回覧板を眺めてる。
「こんにちは」
ガラス越しに、鼻先を近づけてご挨拶。
「黒キジさんは、元気?」
僕は、モモちゃんの声が好き。
だから、その声でそれを聞かれた時に、泣いてしまいそうだった。
それがイヤだったから。
精一杯大きく目を開いて、僕は笑ったんだ。
「…………一昨日、いなくなっちゃった」
「そう……」
優しいまん丸の目でモモちゃんが僕を見るから。
とうとう僕は我慢できずにぽろぽろと涙を落としてしまった。
「泣かなくていいのよ」
ごしごしと前足で目をこする僕に、モモちゃんはやんわりと呟いた。
「黒キジさんはね、きっとまだ、独りが好きなのよ」
それはそれで、寂しいのだけれど。
モモちゃんは僕のために、言葉を選んでくれた。
『きっと独りが好きなのよ』
ではなく
『きっとまだ』
と言ってくれた。
「あの子はきっと、ずっと、飼い猫にはなれないの。それは、仕方がない事なのよ」
モモちゃんは、時々難しい事を言う。
僕の頭ではすんなり理解できない事を。
「犬は犬、猫は猫、よ」
モモちゃんは、まんまるの目をゆっくりと細めた。



とっとことっとこ
ちゃっちゃかちゃっちゃか



小春日和。
脱走がバレる前に、おうちに戻ろう。
あ、どうせ後でバレるんだよ。
だって僕、首輪から抜け出す事は出来るけど、元に戻す事は出来ないんだもの。
来年は、それが出来るようになるといいな。
黒キジさんは、今頃どうしているかしら。
「しゅうちゃん……」
お父さんがつけた、黒キジさんの名前を呟いてみた。
僕、ちょっと鬱陶しかったかな。
そういえば、モモちゃんにもたまに引かれる時があるの。
僕、元気が良すぎて相手にするのは疲れるって。
「しゅうちゃん……何処に行ったのかな」
一人ぼっちのおうち。
お母さんが入れてくれた毛布に鼻先を埋め、僕は小さな青空を見上げた。
でもね。
僕、あんまり難しい事考えるの苦手だから。
泣きながら、少しだけうとうとしちゃった。
「…………」
あれ?
誰かが見てる。
でも眠いから、目が開かないや。
あれれ?
何だかあったかい。
すりり、とほっぺたをすり寄せてくるのは、誰だろう。
「……お前、鼻、長い」
ぺしっとお手手で鼻先を叩かれた。
そんな事言われたって、僕、犬ですもの。
「毛、ごわごわ」
なんて理不尽なお言葉。
だって僕、犬ですもの。
「犬くさい……」
くすくすと笑う声に、僕はまだ夢を見ているのかと思って。
目を開けたら、また消えていなくなっちゃうんじゃないかって思って。
「だって……犬、だもん……」
呟くだけ呟いて、僕は目を閉じたままでいた。
ほろほろとまだ涙が落ちて。
それをぺろりと舐められた。
「………大好きにゃ」
ぐるぐると喉を鳴らし。
そっとそっと、黒キジさんが囁いた。

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