わんこ&にゃんこ

□捕捉対象
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深夜。
フクロウの鳴く声が辺りに響く。
車の音も、人の声もしなくなった時間。
彼の一日が始まる。
神社の境内。
大きなクスノキ。
そこに1羽のフクロウが住んでいる。
「お〜い、ヤク〜っ」
玉砂利を敷き詰めた境内を、音もなく1匹の黒猫が走ってきた。
木の上に居たフクロウ……通称はヤク。何故なら神社の宮司さんの名前がヤクシジンだから……は、くるりと目を開けた。
「いるんだろ〜?ヤ〜ク〜!!!」
にゃあにゃあと声を上げる黒猫はうるさくて。
最初は知らん振りを決め込んでいたヤクも、仕方なく大きな翼をバサリとはためかせる。
クスノキの幹の周りをぐるぐると回っていた黒猫………名前はカゲヒラ………何故なら彼を飼っている主の名字がそれだから……は、嬉しそうにヤクを見上げる。
ヤクは仕方なく、少し低い隣の木の枝へと降りていく。
がしっと枝に掴まるその爪は、間違いなく猛禽類のものだ。
だが、さすがに獲物として猫は大きすぎる。
そんなこんなで、1羽と1匹の間には、不思議な友情が続いているのだ。
「今朝、アキバが来たよ?」
最近話しをするようになった、黒キジのアキバ。
温厚な柴わんこと、やんちゃな黒にゃんこと暮らしている。
後からやってきたちっこいのに居場所を取られ、神社でひとりぼっちでいた所に気まぐれで声を掛けたのは数ヶ月前だ。
カゲヒラとは違い、素直で礼儀を弁えているアキバを、ヤクは気に入っている。
明け方近くに狩りから戻り、アキバに空から見たいろんな風景の話を聞かせてやることが、幾度かあった。
「アキバ、何か言ってた?昨日もちっこいのと大喧嘩したんだアイツ」
ほうほう、とヤクは鳴く。
遠くの森から、同じようにフクロウの声が聞こえた。
「いいや?アキバはあまり、自分のことは話さない子だから」
「だよな……」
カゲヒラは、コブシの木の幹で爪を研ぎ始める。
ばりばりという音を聞いていると、ヤクも何だか落ち着かなくなってきた。
くるんっと首を動かし、カゲヒラから目を逸らす。
逸らしつつ、広い視野の片隅に黒猫の姿を入れておく。
「……………」
微妙な沈黙。
夜の静けさ。
知らず知らず、ヤクの爪がぎゅううううう、と枝に食い込む。
どう考えても、カゲヒラは獲物にはなり得ない。
捕捉するには大きすぎる。
食ってみたらうまいのかも知れないが……。
(あぁぁぁぁ……ガシって掴んでみたい…でもでも、アイツ猫だし…)
こんな気持ちはアキバに対しては全く起きないのだが、どうした事だろう。
それに対して。
カゲヒラも得体の知れない葛藤に襲われていた。
見上げた先に、そっぽを向いたフクロウ。
フクロウは猫の獲物ではない。
鶏ですら、多分無理だ。
せめて、雀とか、カワセミとか……カワセミは天然記念物だから捕まえては駄目だとオカアサンにこっぴどく叱られてから捕ってないけど…。
まあ、せいぜいあのサイズが猫の捕捉対象だろう。
カゲヒラは溜息を吐く。
知らず知らず、うにゅう、と地面に置いた前脚の爪がでてしまう。
爛々と光る目。
姿勢を低くする。
(あぁぁぁぁぁぁ!!!食いたいっ!!アイツに噛み付いてみたいのにゃぁぁぁぁぁっ)
カゲヒラがお尻をふりふりさせた途端。
「ほっほう……」
ヤクの頭がくるんっとこちらを向いた。
金色の目が細まり、カゲヒラを見下ろしている。
「はうっ!!!」
慌ててカゲヒラは、姿勢を正して毛繕いをする。
(今、何考えてたんだろ……)
沈黙の中、お互いにそう思っている事には気付く由もなく。
夜は更けていく。

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