捜査共助課2(短編小説)31〜60話

□原罪
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さあ、始めよう

血塗られたお前に
相応しい復讐を

その手を、血で染めたお前に

相応しい復讐を

罪の根源をお前に示そう

それは
お前の命そのもの



「ねえ…命乞い、してみせてよ」
綺麗な黒い髪。
その痩身の男は艶やかな唇で弧を描いて見せた。
俺の胸元にぴたりと銃口を当て、血のような赤い唇で凄絶な笑みを。
「……た、す…け、て……」
俺は。
ガタガタと震えながらその言葉を繰り返す。
彼は。
更に口角を上げた。
喉の奥から、嗚咽にも似た笑い声を上げながら。
「何でもする…何でも、する、から…っ」
ああ、それでも。
俺は彼に殺されるだろう。
かつて、俺も。
人の命を奪ったのだから。
「これは、当然の、報いだと思わないか……?」
何処か子供染みた表情で、彼は首を傾げる。
「ねえ……名前、覚えてる?お前が殺した……」
彼が呟きの最後の部分は12月の冷たい風に消された。
すぐそこには、人通りがあるのに。
俺はこんな暗闇の路地裏で、今から彼に殺される。
どこからか、クリスマスの賛美歌が聞こえてきた。
そう、これはきっと、報いだ。
「……秋葉……貴美……」
俺は許しを乞う為に、名を呼んだ。
かつて俺が命を奪ってしまった人の名を。
彼は、唇から笑みを消した。





ひどく嫌な夢を見ていた。
早く目覚めなければと思えば思うほど、更に深みに引きずりこまれるのはいつもの事だ。
散々訳の分からない悪夢に苛まれた最後は。
「…………っ」
秋葉は弾かれた様に目を開ける。
身体はじっとりと汗に濡れ、呼吸がなかなか整えられない。
起き上がろうとしたがそれも叶わず、秋葉は右腕で目を覆う。
明け方の部屋の中は冷たく、暗い。
「………やばいな…」
11月の終わりの数日、秋葉は体調を崩していた。
何とか次の非番まではと無理をした結果がこれだ。
熱はそれ程高くはなさそうだが、どうにも身体が言う事をきかない。
『お前、もしかして無理するのが趣味か』
とまでパートナーの影平に言われたが。
決してそんな趣味を持っている訳ではない。
ただ、仕事には穴を開けたくないのだ。
この職業は最後には自己管理能力が問われるのだが、秋葉は影平に、お前は著しくそれを欠いていると言われている。
『お前のそれはな、悪循環って言うんだよ』
どこかひとつを修正すれば、だいぶ楽になるのに。
影平はそう指摘する。
『眠れないんじゃなくてさ…』
影平は、妙に鋭い事を言う時がある。
『それは、眠りたくない、だろうが。それだけ淡々としてる事自体が、もう壊れてんだ』
そう言われても、自力ではどうしようもなくて。
結局秋葉はいつも沈黙でそれに応じる。
『お前、自分はどうでもいいって思ってるからそうなるんだ。バーカ』
がくり、と腕が落ちる感覚に、再び秋葉は目を覚ます。
夢と現実の間をさ迷っている間に、外は明るくなっていた。
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