公安第一課2(裏)

□嫌がらせ
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「なーんか、いい季節になりましたよねえ…」
10月も半ばを過ぎ。
少しずつ秋が深まっていく。
梶原は、シーツを冬用のものに取替えながら秋葉に言った。
「いいですよね、日本って。春は南から桜が咲いていって、秋は北から紅葉が降りてくるんですよ」
「そんなにいいかねえ……」
秋葉の呟きを無視して、暖かい肌触りを楽しむように梶原はころりとベッドの上に転がる。
「……犬……」
秋葉は毛布をその身体に掛けてやり、溜息をついた。
部屋の灯りを消し、梶原の側に座って頭を撫でてやる。
梶原は嬉しそうに目を細めた。
少し甘えたような行動を取る時、梶原はこうしているとものの数秒で眠りに落ちる。
「秋葉さんも、もう寝よ?」
ぽんぽんとベッドを叩き、梶原がにこりと笑う。
「まだ眠くないし、本読みたい」
「……そんな事言って、俺を寝かしつけてまた朝まで起きてるんだ」
梶原は呟き、秋葉の服を引っ張った。
バランスを崩す秋葉の身体を、毛布の中に引きずり込む。
「一緒に寝るの!!」
秋葉の身体を抱き締め、梶原は目を閉じる。
「…………梶原…」
確かに梶原の身体は温かく、その腕の中に包まれれば安心できるのだが。
それで眠気が訪れる訳でもなく、秋葉は溜息をつきながら梶原の顔を見る。
「たまにはお前が……俺に付き合って、起きてればいい……んじゃ、ない?」
小さく問いかけてみても、梶原は既に寝息を立て始めていて。
「離せよ……」
その声は耳に届いたのか、更に強い力で逃げられないように抱きすくめられてしまう。
梶原の寝顔をしばらく見ているうちに、秋葉はふと嫌がらせを思いついた。
2人の身体の間に置いていた左手を、そっと梶原の背中に回す。
トレーナーの裾を捲り、秋葉はそこに手のひらを忍び込ませた。
そして。
「うわああああああ!!!!冷たい冷たい冷たい!!!」
目を覚まし、じたばたと暴れる梶原の身体を逆に抱き締め、秋葉は冷たい手を梶原の背中にぴったりとつける。
「やだやだやだやだ!!!」
おまけに両足も、梶原の足にくっつけてやった。
「離して!!離してってば!!!もう、ごめんなさいって!!」
腕にびっしりと鳥肌を立てて涙目になる梶原に、秋葉はにんまりと笑って見せた。
「もうやだ、冷え性の刑事なんて嫌い!!」
梶原は、秋葉の手を掴み、ふてくされたように言う。
「いい季節になったなあ…お前に嫌がらせが出来る」
唇ではなく、梶原の顎に噛み付き、秋葉はするりとベッドから抜け出した。
「明日、絶対養命酒買ってくる!!!」
「お前が飲むの?」
「違う!!秋葉さんに飲ませるの!!」
ぶつぶつと文句を言いながら、梶原はくるくると毛布に包まっていく。
「もう、キライ!!」
顔まで隠した梶原のくぐもった声が聞こえた。
秋葉はもう一度ベッドに上がり、丸くなった梶原の身体の両脇に手を付く。
「………本当に?嫌い?」
「…………」
少々心細げな声で問いかければ。
梶原は毛布の中から顔を半分覗かせる。
「……騙された!!」
目が合った秋葉は、その声とは逆に楽しげに笑っていて。
梶原は再び毛布の中に隠れてじたばたと暴れる。
「……じゃあ、好き?」
秋葉は笑いを堪えてそう呟いた。
しばらくの沈黙の後、梶原がそっと毛布から顔を出して上目遣いに見上げてくる。
そして両手を伸ばし、秋葉の上体を引き寄せた。
「分かってるくせに!!」
梶原は拗ねて頬を膨らませる。
秋葉の身体を再び毛布の中に包み、先程受けた嫌がらせの事など忘れたように、梶原は秋葉を抱く。
「大人しく寝てください!!おやすみなさい!」
「…………はい」
髪を撫でられ、秋葉は素直に頷いた。

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