第4取調室2

□大掃除
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年内最後の休日。
梶原と黒は年末の大掃除をしていた。
キッチンにて、分解して磨いた換気扇を元に戻していた梶原の背に、ぴしっと何かが当たった。
「あたり〜っ!!」
梶原が振り返ると、ドアを開けた向こう。
洗面所のあたりで黒がにこにこと無邪気に笑っていた。
どこからか輪ゴムを調達して、梶原に向かってそれを飛ばしたようだ。
「お風呂掃除終わったよ」
大掃除をしているというつもりはあまり無いらしい。
黒はとても楽しそうだ。
早く綺麗にすればその分梶原とたくさん遊べるから。
「もうちょっとでここ終わるから。お部屋は一緒に片付けようか」
「うん」
片付ける、とは言ったものの。
秋葉の部屋は元から片付いている。
片付いているというよりも、必要最小限のものしか無い。
従って、大掃除というほどの大掛かりな事はさほど必要ないのだ。
黒が掃除をした場所の仕上がりチェックは、黒の中にいる秋葉に任せるとして。
残すところは寝室だけだ。
「かじわら〜っ」
寝室に入った所で、不意に黒が後ろから梶原に抱きついた。
そのままの勢いで、2人はベッドに転がる。
「なあに、黒ちゃん。まだ掃除終わってないから遊ばないよ?」
決めたルールを厳守するという姿勢は大切だ。
仰向けに体勢を変えて黒を見上げると、彼は梶原を跨ぐように両膝をつき、じっと見下ろしてくる。
真っ黒で、綺麗な目だ。
まるで捕らえた獲物と遊ぶ前の猫の様だった。
「ねえ、かじわら。掃除なんかより……さ」
ぎしり。
そっと囁きながら、黒が梶原の身体に圧し掛かる。
吐息が触れるほど間近で見詰め合う事しばし。
梶原は唇に浮かべた笑みを収め、真顔になった。
「掃除しましょう。秋葉さん」
「………」
ばれたか、とでも言うように軽く舌打ちをして、秋葉が身軽にベッドから降りた。
ほんの一瞬で人格が入れ代わった。
時折この『ふたり』は結託して梶原を翻弄する。
だが。
「秋葉さんと黒ちゃんを見間違えたりしないって言ってるでしょ?」
ただの一度も梶原は秋葉と黒を見間違えた事などない。
ベッドに腰かけ、少し離れた場所にいる秋葉に微笑む。
秋葉は、ふいと目を逸らした。
心を隠すかのように。
「かじわら〜」
「……黒ちゃんの真似をしても駄目です」
ち、と再び小さな舌打ちが聞こえた。
「黒ちゃんはそんな事しちゃ駄目」
隣室から掃除機を運びながら梶原は言う。
「はい、休憩おしまい!さっさと終わらせましょう」
自分が掃除機を渡した相手は誰だろう。
梶原はさりげなく、しかし注意深く目の前にいる彼の目を覗く。
「ね。黒ちゃん」
梶原の言葉を聞いて。
黒は、この上なく嬉しそうに笑った。

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