第4取調室2

□休日の朝ごはん
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休日の朝。
天気は上々のようだ。
黒は目を覚ましたのだが、とりあえず目を開かないまま、隣にいるはずの梶原を手を伸ばして探す。
急に目を開けない事、急に起き上がったりしない事。
もう1人の自分と入れ替わった時は、これが鉄則だ。
黒自体はとても健康なのだが、身体が言う事をきかない。
しばらく時間が経つまで、どうしても主人格の体調を引きずってしまうのだ。
「………」
梶原は眠っている。
黒はさわさわとその茶色の髪に触れて、安心した後でゆっくりと目を開けた。
梶原の寝顔を見る機会はあまりない。
時々この無防備な表情を見る事が出来ると、何だか嬉しかった。
「ん〜………」
軽く伸びをして、身体を自分に馴染ませる。
それから黒は静かに起き上がった。
洗面所に向かい、手を洗って顔を洗って、うがいをして。
着替えは後でもいいや、と台所へ向かう。
黒は戸棚を開けて、ホットケーキミックスを取り出した。
ボウルと泡立て器も並べ、冷蔵庫から牛乳と卵も取り出して混ぜ合わせる。
がっしゃがっしゃと存分に牛乳と卵を混ぜて粉を2人分そこへ投入し、そっと寝室の気配を窺う。
梶原はまだ眠っているようだ。
出来れば、もう少し寝ていて欲しいのだ。いつも朝食を彼に作ってもらうので、たまには反対の事もしてみたいから。
しばらく耳を澄ませた後で完全にボウルの中身を混ぜ合わせると、黒はそっとフライパンをIHヒーターの上に置いた。
「ん〜と……」
バターを少し溶かし、綺麗に丸くなるようにフライパンに液体を流し入れる。
「表面がふつふつしてきたら、ひっくりかえします……」
真剣な眼差しでフライパンを見つめ、黒は呟いた。
フライ返しを器用に使い、ぽん、とホットケーキをひっくり返すと、狐色。
「……よし」
後は焦がさないように気をつけるだけ。
黒はその間に、食器をテーブルに並べ始める。
牛乳はレンジで温めればいい。
野菜は嫌いだから食べたくないけれど、梶原にはヨーグルトを食べさせよう。
ちなみに黒はヨーグルトも野菜同様敬遠したいので、器は1人分だ。
「あ、やばい」
くん、と鼻を鳴らし、黒はフライパンを覗いた。
少し焦げたかも知れない。
もう1度ホットケーキをひっくり返して確かめるが、ギリギリ大丈夫だったようだ。
皿にそれを乗せ、もう1枚分の液体を流し入れる。
温度を少し弱め、その間に梶原を起こしに行く事にした。
「か〜じ〜わ〜らっ!!おはよ!!」
ベッドの上に飛び乗り、梶原の身体に覆いかぶさってそう声を掛ける。
「ん〜……?黒ちゃん……?」
珍しく、眠そうだ。
「ご飯できた!!起きて!!」
少しかわいそうに思えたけれど、黒は梶原を揺さぶった。
ほわんと目を開け、梶原は微笑む。
「ホットケーキのにおいがする」
「上手に焼けたよ?」
梶原に頭を撫でられ、黒は嬉しそうに笑う。
「起きてね」
早く台所に戻らなければ、ホットケーキが焦げてしまう。
黒はとことこと台所へ向かった。
梶原はむくりと起き上がり、その姿を見送る。
『秋葉』が見せる表情とはまた違う『黒』の表情。
いろいろな彼を真っ先に見る事が出来るのは、やはり幸せだと思う。
「は〜や〜く!!!」
黒の楽しげな声がする。
梶原は笑いながら返事をすると、ベッドから飛び降りた。

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