第4取調室2

□8月3日
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最近、黒は秋葉のパソコンで何かをしている。
どうやらネットで何かを購入しているようだ。
梶原は離れた場所からそっと画面を覗いてみる。
すると、途端に黒は振り向いて怒るのだ。
「駄目!!!見ちゃ駄目!!」
どうもおかしい。
そういえば、時折何処かの熱帯雨林の名前のついた箱が届く事がある。
カードは秋葉が黒には持たせていないので、使えないはずだ。
と言う事は。
黒はお小遣いの中からコンビニ先払いで何かの品物を入手しているという事か。
「黒ちゃん、昼間っからパソコンとかしてないでさ。お買い物行かない?」
「やーだ!!」
ふいっと黒は顔を画面の方へ向けてしまう。
「CD、何か欲しいものがあったんじゃないの?」
「アマゾンでぽちるからいいっ!!」
何処でそんな言葉を覚えたのだ。
梶原は日々成長していく子供を見ている感覚で、溜息を吐いて笑う。
「もう!!!あっち行ってて!!!しゅうじにも言わないで!!告げ口したら殺すからね!!」
「はらまたそんな言葉使う!!駄目だって言ったでしょう!!」
黒の口からは、あまり物騒な言葉を聞きたくないのだ。
「ごめんなさい」
どこまで本気で謝っているのかは分からないが。
黒は神妙にそう言って、静かになった。



「今年は何にしよう?」
主人格であるもうひとりの自分と、相談を始めたのは7月の半ば。
何の相談かと言えば、梶原の誕生日プレゼントについて。
「しゅうじ。俺達って、よーく考えたら、かじわらにいろんな物もらってばっかりだよね……」
「よーく考えなくても、そうだね……」
誰に聞かれる事もないのだが。
ひそひそと2人は心の内側で密談を交わす。
梶原は、優しい。
梶原は自分達の身体や心を守るものをくれる。
温かさをくれる。
「お小遣い、貯めたの?」
「うん。結構まじめに……」
じゃらんじゃらん、と黒は貯金箱を振ってみせる。
昨年もそうだったが、よくもまあこれだけ貯めているものだ、と秋葉は感心してしまう。
「なんかね、ネットでぐぐってたらさ……」
「ネットでぐぐる……」
黒の口から『ネット』だの『グーグル』だのという言葉が出てくると、少々複雑な気分になる。
「面白いものがあったんだよね……」
ほら、とプリントアウトした紙を差し出され、秋葉はそれに目を通す。
「……へえ、面白そう」
黒が見せたのは、世界にひとつだけの絵本。
絵本と言っても、きちんとした大人用のものだ。
発注する側が、主人公の名前やニックネーム、性別や住んでいる場所、誕生日やメッセージを入力すると、オリジナルの絵本を作ってくれるというもの。
「いいと思うよ?」
ぐりぐりと頭をなでられ、黒はほっとしたように笑む。
「後ね、これ」
もうひとつは、ペンケースだった。
パラフィン加工された帆布と、本革を使ったもの。
職場ではペン立てとしても使える、という説明書きがしてある。
梶原のペンケースは、薬師神の机の引き出しと同様に、影平を筆頭にした同僚達の所有物になっている。
いつの間にかペンが消えていたりもする。
先日などはついに愛用していたペンケースが行方不明になった。
既に立派な窃盗事件だと思うのだが。
「それから、アイスケーキ!!!絶対外せないってこれは」
「………一体誰の誕生日でしたっけ」
「………食べたいんだもん……」
痛覚が鈍く、あまり暑さを感じない黒も、さすがに今年の暑さにはやられ気味のようだ。
秋葉が軽く額を小突いてやると、ぷう、と頬を膨らませる。
その後で、くすくすと2人は笑い合った。
「じゃあ、ケーキは俺が買っとこうか?」
いくらお小遣いを貯めているとはいえ。
それくらいはいいだろう、主人格として。
秋葉の言葉に、黒は少々迷ったようだが頷いた。
「好きなの決めといて?」
「うん」
こくり、と頷く仕草はまだ幼い。
幼いけれど、黒は梶原と同じように秋葉の心を守ってくれる。
「8月3日に間に合うように、ぽちっとくんだよ?」
「俺、しゅうじより詳しいよ、多分」
ほんの少し、黒は勝ち誇った顔をする。
それがまた愛おしくて、秋葉は黒の頭を撫でた。

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