捜査共助課(短編小説)1〜30話

□朝礼
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刑事課では、毎朝引継ぎを兼ねた朝礼がある。
月に何度かは、拳銃などを装備して点検する正式な朝礼もあるが、今朝は簡単な内輪だけの朝礼だ。
「梶原」
「はい」
陣野にA4の紙を差し出され、梶原はそれを受け取る。
「今日、これ読み上げるのお前」
「えええええ」
署長名で回ってくる文書だ。あれこれ難しいことが書いてあって、これがある日は朝礼内で、交代で誰かが読み上げることになっていた。
「もう俺の番まで回ってきちゃいましたか」
「署長、暇だから。異様に回覧多いもんな」
さっくりとそう言って、陣野は自席に戻った。
梶原はざっと文面に目を通し、ため息をついた。
(よかった、今日は面倒なこと書いてないや)
「……おい」
「うわっ!!何ですか影平さん!!」
不意に耳元で低く言われ、梶原は文字通り椅子から飛び上がった。
「お前は絶対失敗する、お前は絶対失敗する、お前は絶対失敗する」
呪文のように唱え、影平はにやりと笑った。
「つまらない朝礼に笑いをくれ。そしたら一日張り切って働ける」
「……それって俺の役目かなあ?」
ぶつぶつと、『絶対に失敗しろ』と呟きながら、影平も自席についた。
「ストレスたまってますねえ、皆さん」
フロアを見渡して、梶原は息をついた。
「ご期待には答えないと駄目ですかねえ?秋葉さん」
「誰も朝礼に笑いなんて期待してないだろ」
そっけなく一言で会話を打ち切られる。
「ですよね」
もう一度署長からのありがたい文書を一読する。
そうこうしているうちに、朝礼が始まってしまった。
昨日から引き続いて捜査している事項の確認などをそれぞれにメモしていく。
梶原もとりあえず、伝達事項を左手の甲にボールペンで書き込んでいく。
隣の秋葉は小さめの手帳に。
「あ、じゃあ署長からの文書読み上げますね」
一通り伝達が終わったところで、梶原が声を上げた。
「今日は一項目だけです。拳銃使用について」
最近警察官が止むを得ず、犯人にむけて威嚇射撃、または実際に動きを止めるために発砲する事が増えている。
こちらも身の危険を感じる時も確かにあるのだが、やはり撃たないに越したことはない。
「えー、各員、拳銃の使用については適当に判断してください!!!」
微妙な沈黙の後、まず影平が吹き出した。
「……?」
秋葉が梶原の手元の紙を覗き込む。すばやく目を走らせて、盛大にため息をついた。
「適当じゃなくて、適切、だ。馬鹿」
「……あ、すみませーん。拳銃使用は適切に!でした」
慌てて言い直したものの、その場にいた全員が脱力してしまった。
「はいはい、一日適当に頑張りましょ!!」
影平の一言で、朝礼は終わってしまった。
「お前、絶対狙っただろ」
「もー。狙ってませんって!」
秋葉の言葉にムキになって反論してみても、2時間で署内に『適当な拳銃使用』の話が回ってしまったのは言うまでもない。

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