捜査共助課(短編小説)1〜30話

□best friend
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あんたと私

きっと友達になれるよ


午後11時。
手元の電話が鳴り、秋葉は書類から目を上げた。
内線のランプが点滅している。
「はい、秋葉です」
メモ用紙を引き寄せて受話器を取ると、若干申し訳なさそうな声が聞こえてきた。
「あ〜、秋葉?今、暇?」
声の主は、少年課の佐藤巡査部長。秋葉よりも7つ年上の男だ。
「暇なわけがないでしょう」
彼からの内線はロクな事がないので、秋葉はさっくりと切り返す。
「そこを何とか。例のアレだよ。お前じゃないと話さないって言ってんだ。ちょっと降りてきてくれよ」
「………例の、アレって……」
ぷつり、と一方的に通話が途切れた。
秋葉は舌打ちをして、立ち上がる。
「すみません、陣野さん。少年課まで降りてきます。何かあったら携帯鳴らしてください」
向かいの席にいた陣野にそういい置いて、刑事課のフロアを後にした。



(あー、来た来た)
私は秋葉の姿を見つけて、その場で飛び跳ねんばかりの勢いで立ち上がった。
「やっほ〜!!あっきっば〜!!」
「うるさい、座ってろ」
横にいた佐藤に腕を引かれて、渋々パイプ椅子に座る。
ついでに頭も押さえ込まれたが、別に不快じゃないんだこれが。
「例の、アレ…ね」
苦々しい表情で秋葉は呟く。迷惑そうな顔。
その顔を見て、ちょっと悲しくなったが、負けるもんか。
私は全開の笑顔で答えてやる。
「こんばんは〜!例のアレでぇす!」
「馬鹿か」
低い声で言われ、またへこむ。
「んじゃ、秋葉。ちょっと任せる。俺は残りの奴等の面倒見なきゃだから。今度埋め合わせするからさ」
「……佐藤さん、代わりに逮捕状請求とかしてくれんの」
その呟きを聞かずに、佐藤はさっさと別室に消えてしまう。
(わーい、これで秋葉と二人きり)
「相変わらず馬鹿やってんのか」
秋葉はパイプ椅子を引き寄せ、溜息まじりに私と向かい合わせに座った。
「やってないよ?今日はダチと公園で花火やってたら、通報されちゃっただけだもん」
私は口を尖らせる。
「今何時だ」
「11時過ぎ」
不機嫌そうな問いかけに、即答してやる。
「お前、何歳だっけ」
「16歳!!」
私の答えに、秋葉はまた溜息をついた。
「あのね。よく聞けよ、村上沙希さん?」
「なんですか?秋葉柊二さん」
秋葉との問答は楽しい。
「午後11時って言ったら、16歳が出歩く時間じゃないだろう」
ただでさえ、物騒な時代だ。秋葉の顔がそう言っている。
「しかも。お前、その髪。とうとう茶髪通り越して金髪だな。おまけに唇にまでピアスあけて」
そう言って、秋葉はしばらく私の唇を眺めていた。
「………醤油とかしみたりしねえ?それ」
「ぎゃっはははははは、秋葉〜!!あんた面白いこと言うねえ!!」
だから私はあんたが好きだよ。
不機嫌で無愛想だけど、私の外見だけで私を判断してないもんね?
「腕は?見せてみろ」
ふと優しげな口調になって、秋葉が両手を私に差し出す。
私は素直に両腕をその手のひらに預けた。
相変わらず冷たいよ、あんたのその手のひら。
もう夏だっていうのに。
「もう、切ってないか?」
「うん」
そこだけは神妙に。私は答える。
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