自動車警ら隊(リクエスト)

□koko
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4月30日・水曜日。
日勤を終え書類をチェックして、帰宅したのは19時だった。
24時間勤務、非番、日勤、というサイクルの間に、不規則勤務を繰り返していつも家族とは擦れ違う事が多い。
「ただいま」
ひとつ息を吐き、玄関のドアを開ける。ここから先は何よりも一番護りたい場所であり、ここから先には、一切仕事を持ち込まない事にしていた。
今日一日触れ続けた人間の負の部分を、靴を脱ぎながら一緒に拭い去る。
「おとーさんっ」
ばたばたと廊下を走る音がして、娘の和香奈が飛びついてきた。この春で小学3年生になった。
「ただいま」
自然と笑みがこぼれた。いつまでこうして俺を出迎えてくれるかな、と思いながら。
「秀昭は?」
「お兄ちゃんは、剣道行った」
和香奈より2つ年上の息子は、昨年から剣道を始めた。そのうち俺より背も高くなって、俺より強くなってしまうんだろうなぁ…。
和香奈を抱き上げたまま、リビングに入る。
「お帰りなさい」
「ただいま」
留守にしがちな俺の代わりに家族を護っている妻の睦美が、いつもと変わらない笑みで迎えてくれる。元婦警だった彼女は、俺の仕事を誰よりも理解しているし、恐らく子供たちがこうして素直に育っているのも、98パーセントは彼女のおかげだ。俺ができるのは、残り2パーセントくらい。多分。いや、もしかしたら2パーセントもないかも知れない。
「眉間にシワ」
「……ごめん」
睦美に笑われながら指摘され、俺は和香奈を床に降ろしながら謝った。
「明日は?」
「もう一日日勤」
世間はGWとやらに突入しているらしいが。俺は何となく忙しい。家族サービスとか、そういうものとはほとんど無縁の生活が続いている。睦美が差し出してくれた缶ビールを開けて、俺はテレビの前のソファに腰を下ろした。画面からは、レスキュー隊の特集番組が流れている。和香奈は意外にこういう番組が好きだ。誰に似たのかは分からない。
(こういう仕事も…大変だよなあ……)
テーブルの上にビールを置き、俺は救出作業をしている彼らの姿を見つめた。
「ねえねえ、お父さん」
ちょこん、と横に座った和香奈が俺を見上げてくる。
「ん?」
「和香奈ねえ、大人になったら、消防士になる」
思わず、ずるっとソファから滑り落ちそうになってしまう。
「な、何で」
「それか、刑事になる」
平然とそう言う娘を見て、俺は答えに詰まった。もしかして、俺たち夫婦は娘の育て方を大きく間違ってないか?
息子ならまだしも。
この年頃なら、もうちょっとかわいい夢を持つものではないかと…思ってみたり。できれば、もっと平穏無事な仕事に就いて欲しいと思うのは、親として間違いではないはずだが。
「お父さんみたいに、人を助ける仕事がしたい」
意外なほど、強い瞳で和香奈は言った。
(そうか、俺の仕事って人を助ける仕事に見られているんだな…)
今更ながら、それに気付かされる。
「じゃあ…いっぱい勉強しなくちゃな?」
うれしそうに頷く娘に、俺は笑いかけた。
このまままっすぐに育ってくれるかは分からないけれど。
今のところ、すごくしっかりした子供に育ってくれている気がする。
こういうのを、親馬鹿というのかも知れない。
護るべき家族がいるから。俺は明日も迷うことなく足を踏み出せる。
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